本当の別れをあたしは知らなかった。だけど、たとえば今そばにいてくれるカーヤとも、いつかは別れるときがくる。出会った人とは必ず別れなければならなくなる。それは相手の死だったり、自分の死だったりするけれど、必ずやってきてぜったいに避けられないものなんだ。
だとしたら早いか遅いかだけの違いしかないんだもん。リョウは、とつぜん現われて、あっという間に消えてしまった人。それでもあたしの中に残ったものは果てしない。だからあたしはむしろ、リョウと出会えたことをこそ喜ぶべきなんだ。本当だったらぜったい出会えなかった人に出会えたんだって、そのことを。
「そうだ、あたし、お夕食の前に出かけてくる」
「どこへ行くの?」
「タキのところ。帰ってきてからまだ1度も顔を見せてなかったから。それに怪我の具合も気になるし」
「今から? そんなに急がなくても、明日にすればいいんじゃないの?」
明日はきっと、リョウがいなくなって神殿は大騒ぎになってしまうだろう。あたし自身も笑って人と会える状態じゃなくなってるかもしれない。
「思い立ったら早い方がいいわ。大丈夫。ちゃんと夕食までには帰ってくるから」
不思議そうに見つめるカーヤとはあまり目を合わせないようにして、あたしは宿舎を飛び出した。そのまま神官の共同宿舎を訪れて、タキの病室が変わっていないことだけ確認してから奥の部屋をノックしたの。返事を聞いてドアを開けると、タキはうつ伏せで寝転がって本を読んでいたんだ。
「あれ? 命の巫女。どうしたの? まだ諦めてないの?」
あたし、ちょっと驚いて呆然と立ち尽くしてしまったみたい。命の巫女と間違えられるのは久しぶりで、いきなりのことでどう反応していいか判らなかったの。タキにもあたしの戸惑いは伝わったんだろう。すぐに身体を起こして言った。
「…もしかして、祈りの巫女かな? 髪飾りをつけていないけど」
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