午後になって、あたしは村に降りていた。村の様子を自分の目で確かめるのは、5回目の影の来襲で祈り台を壊されて以来のことだ。あれから村は更に6体ものセンシャに蹂躙されてきた。徐々に復興は進められていたけれど、焼けただれた家の残骸がそのままになっているところも多くて、センシャの攻撃の激しさを物語っていた。
 あたしは通る人ひとりひとりに、影の国で祈りの力をもらったお礼を言い続けた。心配してくれるみんなには、元気な笑顔を見せていた。そうして歩き続けて、あたしはひとつの家の前にたどり着いたの。影の来襲で1度も壊れることがなかった、とっても強運なランドの家に。
 ランドもミイもいないかもしれないと思ったけれど、ノックをするとまもなく中からミイが顔を出した。
「あら、こんにちわユーナ。よくきてくれたわ。さあ、中に入って」
「こんにちわ。とつぜん来ちゃってごめんなさいね。もしかしたら誰もいないかもしれないと思ってたの。ほら、ミイはリョウの世話をしてくれてるって聞いてたから」
「リョウが帰ってきてから2日間だけね。その2日でみっちり仕込んだから、食事も洗濯もどうにか自分でやってるはずよ。ユーナも良かったら冷やかしに行ってあげてね。ユーナが傍で見ていたら、少しはまともな食事が作れるかもしれないわ」
 あたしはミイの言葉にかなり驚いていたの。リョウ、家のことはなにもできなかったはずなのに、今は自分でやり始めているの? …リョウは本気なんだ。本気でここで暮らしていくつもりになってる。
 ――ダメだよ。リョウは自分の村へ帰る人なんだもん。早くリョウを帰してあげなきゃ。
 ミイがあたしのためにお茶を入れながら話しかけてくる。
「ねえ、ユーナ。村がこんなことになったばかりでまだなにも考えられないかもしれないけど、そろそろリョウとの結婚のこと考えてみない? まあ、確かにね、ユーナは両親が亡くなったばかりだし、オミもまだ起きられないほどの怪我をしているし、すぐには無理だとは思うわ。でも、ランドも楽しみにしているし、あたしも。それに、村のみんなだって、明るいニュースを求めてると思うのよ。こんなことがなければいずれは結婚するつもりだったんでしょう? だったら少しくらい予定を早めても――」
 ミイの立て続けのおしゃべりは笑顔で相槌を打ちながらかわして、なんとかここでの用事を済ませると、あたしは村をあとにしていた。
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