話し始めてから1度もあたしと目を合わせないカーヤは真っ赤になっていた。こんなカーヤは初めて見るから、あたしもちょっと驚いていたの。だって、カーヤっていつも大人で、2つ年下のあたしにはなんでも相談できる姉のような存在だったから。オミにキスされたくらいでこんなにかわいくなっちゃうなんて思ってもみなかったんだ。
 もしかして、少しは望みがあるのかな。少なくともカーヤは、オミと2人きりになりたくないって思うくらいには、オミのことを意識しているみたいだから。
「…あたし、5歳も年上なのよ。オミが一人前になる頃にはおばさんだわ」
 あたし、ちょっとドキッとした。カーヤは気づいてないの? もしもオミのことを意識してなかったとしたら、言うべきセリフは「オミはまだ子供だからあたしにはふさわしくない」って方だと思うのに。
 あたし、オミはぜったいカーヤにふられると思ってた。だけどカーヤのこの様子だと、もしかしたらオミの恋は実るかもしれないよ!
 慎重に立ち回らなきゃ。カーヤはけっこう意地っ張りなところがあるから、あたしがなにか言って意地を張らせるようなことにはぜったいにさせちゃいけない。
「オミってね、あれでかなり早熟みたい。11歳の頃から父さまの仕事を手伝っていて、13歳でもう簡単なガラス製品なら作ることができるの。身体が治ったらすぐに工房を建て直して、村の復興のために一生懸命働くと思うわ。…そうね、それでも一人前だって認められるまでには2年はかかると思うけど。さすがにあたしもカーヤに2年待って欲しいとは言えないわ」
 2年経ったらカーヤは20歳だ。女の子の結婚年齢としては明らかに行き遅れだけど、巫女の中にはそのくらいで結婚した人もいる。具体的な数字を聞いて、カーヤの中でオミとのことが現実的になっていくのが、見守るあたしには手に取るように判ったの。あたしにできるのはここまでだ。あとは、オミに自分でがんばってもらうしかない。
「…判ったわ。オミに食事を届けてくる。よかったら先に食べていて」
「ええ。そうする。お願いね、カーヤ」
 意を決したカーヤがオミの部屋に食事を届けに行くのを見送って、あたしは少しの寂しさを感じながら、独りで昼食を食べ始めた。
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