「それって…ユーナの体験談?」
「…そういうこと言ってない」
「リョウの奴が謝ったのか? ねえ、そうなのか?」
 あたしはそれ以上なにも答えられなくて、強引に話を終わらせると台所まで来て食卓の椅子に座り込んだの。そのまましばらくの間、あたしはただぼんやりと、幸せだったあの頃の思い出にひたっていたんだ。
 思い出なら、たくさんある。この思い出があればあたしはきっと生きていける。だって、リョウとの思い出は10年分もあるんだもん。思い出していたらきっと、あとの10年くらいあっという間に過ぎていくよ。10年経ったら、たぶん今回の戦いのことも笑ってみんなに話すことができるようになるだろう。
 そうしているうちにお昼が近くなってきて、さすがのあたしも昼食を作り始めようかと腰を浮かせたとき、ようやくカーヤが帰ってきてくれていた。椅子に腰掛けていたあたしにチラッと視線を向けたあと、無言で食事の支度を始めたの。あたしも特に話しかけたりはしないで、カーヤの背中を眺めながら待っていたんだ。
 やがて3人分の食事を作り終えたカーヤは、オミの分をお盆に用意しながらあたしに話しかけてきたの。
「あの、ユーナ。…暇だったら、オミの食事を持って行ってくれない?」
 なんとなく、そんなことを言われそうな予感がしていたから、あたしは笑顔で首を振って用意していた言葉を言った。
「あたし、暇じゃないわ。だからカーヤが持っていって」
「どうして? すごく暇そうじゃない! …もしかして、やっぱり、オミに聞いてるのね」
「詳しくは聞いてないわ。ほんの少しだけ。…ね、カーヤ。逃げないでやって。あれでもオミは真剣なの。だから――」
「やだ! それじゃユーナは前から知ってたのね? オミがあたしに対してその…」
「カーヤに恋をしてるってことには気づいてたわ。もちろん、カーヤがオミのことを将来の結婚相手として見られないだろうってことは判ってた。でも少なくともオミがカーヤに恋をすること自体は自由だもの。あたしの方からはなにも言えないよ」
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