「…キス、した」
 今度はあたしが驚く番だった。オミとカーヤ、いつの間にかそんなところまで進んでいたの?
「告白したの? いつ?」
「…してない」
「え?」
「告白、してない。…キスしたところで逃げられちゃったから」
 オミ、告白をしないでいきなりキスしちゃったの? あたしは半分あきれてしまって、大きくため息をついた。
「それじゃ逃げるよふつう。もっとほら、ちゃんと考えてから行動しなくちゃ」
 オミにもそのことは判ってたみたい。あたしが言うと、頭をかきむしるような動作をした。
 どうしてオミは考える前に行動しちゃうんだろう。父さまも母さまもすごく考え深い人だったのに、オミはいったい誰に似たのかな。
 頭をかかえてぶつぶつ独り言を言うオミが、なんだかすごく愛しく思えた。まだまだ子供だと思ってたのに、いつの間にか恋をして、知らない間に男の人になってる。今のオミ、すごくかわいいよ。きっと本人に言ったら凄まじい勢いで怒られると思うけど。
「…リョウは?」
「え?」
「リョウはどうだったの? ちゃんと考えてから行動してた?」
 訊かれて、あたしはあの頃のリョウのことを思い出す。――毎日、あたしと話すために宿舎に通ってくれた。あたしに嫌われたくないって、ずっと優しく接していてくれた。あの頃のリョウは優しすぎるくらいだったよね。そんなリョウにやきもきしていたことも、今はすごく懐かしく思い出せるよ。
「考えてたよ。考えすぎるくらい考えてた。あたしにプロポーズする前にはちゃんと家を建てて、仕事でも誰にも文句を言われないほどの成果を上げてね。じれったいくらいで、むしろあたしの方が――」
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