「できれば見送られたくないのよね。朝早くしたのもそういう理由だったし」
「そうなの? どうして?」
「やっぱりね、真面目に見送られても照れるから。別れの涙って苦手なの、性格的に」
「この村ではずいぶんよくしてもらったからさ。離れがたくてずるずる出発を遅らせちまいそうな気もするし」
 2人の言うこともなんとなく判った。その時がきたら、あたしも涙なしではリョウと別れられなくなってしまうだろう。
 命の巫女たちと簡単な会話を交わして神殿の書庫から帰ってきたあたしは、いったん宿舎に戻ろうと扉を開けた。と、そのとき、宿舎の中からいきなり出てきた人とぶつかりそうになっていたの。振り返ったのはカーヤで、ずいぶん驚いていたみたいだった。
「ごめんなさいカーヤ! 怪我はなかった?」
「あ、…ええ、大丈夫。…ごめんなさい」
 カーヤは不自然な動作で顔を伏せて、そのまま宿舎を走り去っていく。
 あたしは首をかしげながら扉を入ってみたの。そうしたら、オミの部屋のドアが開けっ放しになってたんだ。カーヤは普段ドアを開けたままになんかぜったいにしないから、もしかしたらオミとなにかあったのかもしれないって、そう直感した。
 開け放たれたドアから覗いてみると、ベッドに上半身を起こしたオミが壁を見つめているのが見えた。
「オミ」
 あたしが声をかけると、オミは慌てふためいてベッドから落ちそうになるくらい驚いたんだ。そのあと胸を押さえてうずくまってしまったから、あたしは思わず笑いを誘われてしまったの。
「ユーナ! …脅かすなよ」
「普通に声をかけただけじゃない。それよりどうしたの? カーヤになにかしたの?」
 あたしの問いに、オミは目を伏せて真っ赤になっていた。やっぱり2人の間になにかあったんだ。オミはしばらくの間沈黙していて、あたしは辛抱強く待っていると、やがて聞こえるか聞こえないかのか細い声でそう答えた。
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