「それじゃ、2人で書いているの?」
「ええ、そう。あたしがこの村へつくまでで、シュウがそのあと影を倒すまで。シュウはぜんぶ自分で書くって言ったんだけどね。シュウの文章じゃあたしたちの世界のことがぜんぜん伝わらないから」
「…悪かったな、文才ゼロで」
「あたしが一緒でよかったでしょ? シュウ1人だったら本を書くなんてぜったい無理だったんだから。感謝してよね」
2人の前には既にたくさんの紙が重ねてあったのだけど、命の巫女はシュウの3倍は書いているみたい。2人ともボールペンを握ってるから、あたしが筆で書くよりもずっと文字は小さくて、見かけの紙の枚数よりもずっとたくさんの文章を書いているんだってことが判った。
「命の巫女は文章を書く仕事をしているの?」
「ううん、仕事じゃなくて、趣味。…どう言ったら判りやすいのかな。初めて文字を覚えた子供がね、楽しんで読めるような物語を書いているの。祈りの巫女は思ったことがない? 空を飛んでみたいとか、動物とお話をしてみたいとか」
「…そうね。思ってたかもしれないわ。小さな頃には」
そういえば小さな頃、シュウといろいろ話したような気がする。森の木は葉ずれの音で会話しているんだって、一生懸命森の木に話しかけて、その声を聞き取ろうとしてみたり。その頃カーヤと友達だったらそんな空想も本物になっていたかもしれないけど。
「そういう、子供の純粋な願いをかなえるような物語を書くの。子供たちが物語の主人公になって動物とお話しするのよ」
「要するに、子供に嘘を教えるのがおまえの趣味ってことか。まさに悪趣味だな」
「あのねえ! せめて夢を与えるって言ってよ。ほんとにシュウって夢がないんだから!」
そうして2人はまた言い合いを始めてしまう。あたしは笑いながらそんな2人を見ていたのだけど、あんまり邪魔をしても悪いから、そろそろその場を辞すことにしたの。
「明日の早朝、あたしも見送りに行くわ。夜明けの頃でいいの?」
「夜明けよりも少し前になるかな。でも、別に来なくてもいいよ。今日の夜には宿舎に挨拶に回るつもりだし」
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