ふと、目を向けて、あたしはシュウの腕の包帯に気づいていた。
「シュウ、怪我をしたの? もしかして影の世界で?」
あたしの視線に気づいたシュウが腕を見せながら答えてくれる。
「ああ、これは影にやられたんじゃないよ。昨日ね、自分で傷つけた」
「自分で? どうして?」
「気になったからさ。オレたちの身体がちゃんと元に戻ってるかどうか」
そうだ。あたしも気になってた。影の世界では中身が空洞になってしまっていたあたしたちの身体。元の村に戻ってきたけれど、本当に自分の身体が元に戻ったかどうか、あたしに確かめることなんかできなかった。
「んもう、シュウってバカでしょう? そんなことのためにわざわざ包丁で腕を切ったりするんだよ。しかもこーんなに長く」
命の巫女が指で示した長さは、ほぼ10コントくらいに達していた。そんなに切って本当に大丈夫だったの?
「それで? 傷はどうだったの? 血は出たの?」
「ちゃんと出たよ。しばらくは痛いし血は止まらないし、2度とやるまいと思ったけどね。おかげでいい材料になった」
シュウの答えにあたしもほっとしていた。シュウの身体が元に戻ってるってことは、きっとあたしやリョウの身体も元に戻ってるってことだから。
それにしても、シュウって本当に神官なんだ。真実の探求のためになら自分の腕を切っちゃうんだから。
「シュウが本を書くって聞いたわ。命の巫女の物語を書いているの?」
「んまあ、そんなところだね。オレの文章はそんな立派なもんじゃないけど」
「シュウの文章はひどいのよ。時間があったら添削してあげるけど、そのままになっちゃったらごめんね」
命の巫女が口を挟んで、いつもだったら言い返すシュウも今回ばかりは苦笑いを浮かべたまま黙っていたの。どうやら文章を書くことに関しては、シュウよりも命の巫女の方が上手みたい。完全に今までと立場が逆転していて、あたしは不思議に思ったんだ。
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