ようやく目が覚めた。あたしは、リョウの優しさに甘えてばかりじゃいけない。あたしがしっかりしなかったらみんなが迷惑するんだ。村のみんなだって、あたしがいつまでも立ち直れなかったら、いつまで経っても自分たちの幸せをあたしに願うことができなくなってしまうだろう。
あたしは祈りの巫女。村の人たちの願いを神様に伝えて、みんなを幸せにするのがあたしの役目。あたし自身の幸せは、みんなを幸せにすることで自然についてくる。影の襲撃で傷ついたのはあたしだけじゃないんだもん。これからは、影につけられたみんなの心の傷をあたしが癒していくんだ。リョウがあたしにそれを気づかせてくれたの。
あたしに優しさをくれたリョウだって、きっと同じように傷ついていた。でも、自分の傷を差し置いて、まずはあたしの傷を気遣ってくれたの。そんなリョウと同じことがあたしにできないはずがないよ。今度はあたしがリョウをリョウにとっての現実へ帰して、リョウの傷を異世界のものにしてあげるんだ。命の巫女たちのように、リョウも簡単に異世界と現実とを切り離すことができるように。
そう、心を決めた翌日、あたしは久しぶりに自分から宿舎の外へ出かけていた。まずは守護の巫女の宿舎へ行って、昨日のことを謝ったの。リョウはあのあとやっぱり会議に戻っていたようで、リョウに様子をきいていた守護の巫女にかえってあたしを気遣わせてしまった。
そのあと、命の巫女に会うために、あたしは神殿の書庫へ向かった。出発はもう明日に迫っていたから、今日のうちに本を完成させないといけないんだ。いったいどんな本を書いているのかあたしには判らないけど、今回の命の巫女は村に日記を残していないから、その代わりになるような物語を書いているのかもしれない。
書庫の作業机で向かい合わせに座っていた2人は、あたしに気づいて顔を上げてくれた。
「おはよう祈りの巫女。体調はもういいの?」
「ええ、心配かけてごめんなさい。2人とも明日帰るっていうのに、ずっとお話もできなくて」
「無理もないよ。オレたちは明日帰っちまえば終わりだけど、君たちはこれからこの村を復興していかなければならないからね。途中で放り出すみたいでかえって気が引けてるくらいだ」
シュウはいつもと同じ笑顔をあたしに向けてくれて、あたしにもリョウが言った異世界と現実との違いが判るような気がした。
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