目が覚めたとき、リョウは既にあたしの部屋にはいなかった。窓の外から差し込む光は既に夕方であることを物語っている。リョウはきっと、あたしが眠ってすぐに部屋を出て行ったのだろう。もしかしたら長老宿舎での会議に戻ったのかもしれない。
 あたしはしばらく起き上がることをしないで、ベッドの中でぼんやりと考え込んでいた。さっきまでのリョウとの会話を思い出す。命の巫女たちは、明後日の朝には自分たちの村へと出発してしまうんだ。
 リョウはあたしの傍にずっといてくれるって、そう言ってた。はっきり訊いた訳じゃないけど、それはきっとリョウが命の巫女たちと一緒には帰らないってことだ。そう、リョウが口にしたってことは、リョウの中ではそれは決まっていることなんだろう。そうじゃなかったとしたら、たとえパニックを起こしたあたしを落ち着かせるためだって、リョウはぜったい言葉にしたりはしないはずだから。
 嬉しい、よりも怖かった。なぜなら、リョウはこの時を逃したら、一生自分の村へ帰ることはできないの。リョウは強い意志を持ってる人だ。そんなリョウが決めたのなら、リョウにはきっと一生をこの村で暮らしていく覚悟があるのだろう。
 だけど、本当にそれでいいの? 家族にも、親しい友人にも、誰にも会えない。今までリョウが持っていたもの、それをすべて捨てなければならない。リョウが自分の村で築いてきたもの、そのすべてを諦めなければならないの。ここへくるまでのリョウはきっとさまざまな夢を持っていて、そのために今までずっと努力してきていたはずだから。
 リョウ自身が決めたことだからといって、この先ぜったいに後悔しないとは言い切れないよ。リョウがそんな決心をしてしまったのは、すべてあたしのせいなんだ。あたしがしっかりしなかったから、優しいリョウはあたしを見捨てられなかった。リョウがいないあたしはこれからさき生きていけないって、リョウには判ったから。あたしの弱さがリョウを不幸にしてしまうかもしれないんだ。
 しっかりしなくちゃ、あたし。このままじゃリョウが帰れない。明後日ならまだ間に合うよ。だからちゃんと言うんだ。あたしはリョウがいなくても大丈夫だ、って。
 リョウがいなくても、あたしには祈りの巫女の仕事がある。村のみんながあたしの祈りで幸せになるんだもん。それがきっとこれからのあたしの支えになってくれる。そのうちに、あたしにもリョウ以外の大切な誰かが現われるかもしれない。
 ここはあたしの村なんだ。だからみんなが支えてくれる。リョウも、リョウを支えてくれる村へ帰るのが、1番いいことなんだ。
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