でも違う。あたしが感じているのは、影に対する恐怖だけじゃない。だってあたしは、リョウが言った「明後日シュウたちが帰る」って言葉に反応してパニックを起こしたんだから。
「少しずつでいい。俺はずっとおまえの傍にいる。だからおまえは焦らなくていいんだ。長い時間をかけて、ゆっくり心の傷を治していけばいい。俺が傍にいる」
 リョウは言いながら、あたしを部屋のベッドへと促していた。リョウに促されるままあたしは自分のベッドに横になる。まだ、身体は震えたままで、横向きに寝転がって手足を縮めていることしかできなかった。見開いたままの両目にリョウが手のひらをかざしてくる。
「目をつぶって、少し眠るんだ。おまえは自分が思ってるよりずっと疲れてる」
 すぐに目を閉じられる気がしなかった。あたしはリョウの手を握って、目の前から動かしたあと、覗き込んでいるリョウを見上げたの。
「傍に、いてくれる?」
「ああ。おまえが眠るまでここにいる」
 そう言って、リョウがあたしに微笑みかけてくれた。その微笑を見てようやく目を閉じることができる。だけど、リョウの手は胸の前で握り締めたままで。
「大丈夫だ。おまえは1番安全なところにいる。もう影は襲ってこない。だから安心して眠るんだ」
 前にもこんなことがあった。あたしが、初めてセンシャを見て、シュホウに恐怖を感じた夜。あの時もリョウがいてくれなかったら恐怖を克服できなかった。今日も、もしもリョウが気づいてくれなかったら、あたしは会議の席でみんなに迷惑をかけていただろう。
 リョウはずっとあたしを見ていてくれる。そして、あたしが必要とするときには、必ず傍にいてくれる。リョウは本当に優しい人なんだ。きっと誰もが、リョウがあたしの婚約者だってことを疑いはしないだろう。
 眠りにつく直前、あたしはさっきリョウが言ったことを思い出していた。俺はずっとおまえの傍にいる、って。それは、リョウが命の巫女たちと一緒に帰らないってこと? これからもずっと、あたしの傍にいてくれるってことなの…?
 そのことを深く追求するより前に、あたしはいつの間にか眠りに引き込まれていった。
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