言い放って、リョウはもうあとも見ずにあたしの手を引いて、長老宿舎から連れ出してしまっていた。いきなりのことで驚いたのはあたしも同じだった。一瞬でも早く長老宿舎から離れようとしているかのように大股で歩いていたリョウが、神殿広場にかかる頃には歩みを緩めてくれたから、あたしもようやく口を開くことができたの。
「リョウ、ねえ、どうしたの? こんな、あたし大丈夫なのに」
「おまえ、自分が今どんな顔してるのか――…いや。とにかく今日のところは休んでおけ。話をする機会ならこれからいくらでもある」
「…うん。リョウがそう言うならそうするけど」
なんとなくみんなに悪い気がした。だって、命の巫女たちはきっと、あたしの話が聞きたいからあそこに集まってくれたんだもん。肝心のあたしが抜けてしまったんだから、せっかく集まってくれたみんなにはすごく迷惑だったと思うよ。
再び口を閉ざしたリョウに手を引かれて歩きながら、あたしは不思議な非現実感を感じていた。あたし、今、リョウと2人で歩いているんだ。昨日までのあたしはリョウのことを必死で忘れようとしていた。でもリョウはいつの間にかあたしのそばにいて、あたしは違和感なくその状況を受け入れている。
まるで夢を見ているみたいだった。もしかしたら、これは本当に夢なのかもしれない。本当のリョウはもうずっと前に村を離れてしまっていて、あたしはリョウが村にいる夢を永遠に見ている。あたしは既に夢の中の風景を現実として認識しているのかもしれない。
…それでもいい。リョウがいなくなった村に独り残されるくらいなら、あたしは永遠にリョウの夢を見続けたい。人から見たらそれはあたしが狂ってしまっているってことなんだと思う。でも、これから先ずっとリョウが傍にいてくれるのなら――
リョウが宿舎の扉をノックすると、中からカーヤが出てきてちょっと驚いた顔をした。
「あら、ユーナどうしたの? 会議は?」
その質問にはあたしは答えられなくてリョウを見上げると、リョウもどう答えていいか判らないようだった。なんとなく顔を見合わせてしまって、そんなあたしたちの様子を見てカーヤが扉を大きく開けてくれる。
「いいわ。とにかく入って。2人とも久しぶりに会ったんだもんね。あたしは遠慮するから、中で話でもするといいわ」
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