だけど、時はいつまでもあたしを偽りの平和の中に置いといてくれはしなかった。
翌日、朝食が終わってしばらくした頃、あたしの宿舎に神官のセリが訪れていた。本当はもっと早く来たかったのかもしれない。でも、そんな様子はおくびにも見せないで、テーブルについたセリはあたしに笑顔で語りかけた。
「――影の国での様子はね、守護の巫女が命の巫女とシュウに少しずつ話を聞いていて、オレたちにもおおよそのことは知らされてるんだ。だからぜんぶを最初から最後まで話す必要はないと思うよ。もしも身体がつらかったら途中で抜けてもらってもかまわないし。本当に顔だけ見せてくれればみんなが安心するから」
もしかしたらあたし、ものすごく無気力な顔をしていたのかもしれない。セリはそれを、あたしの体調が戻ってないと思って心配してくれてたんだろう。気づいたときから、あたしは笑顔を作ってできるだけセリの話に集中していた。だって、あたしが無気力に見えたとしたら、それはけっして体調のせいじゃなかったから。
「大丈夫よ。あたしも命の巫女たちの話を聞きたいし。途中でね、あたしたち、影にバラバラにされちゃったの。だからその間のことはお互いに知らないこともあるから」
「命の巫女たちもそう言ってたよ。君が祈りを捧げているときは彼らも戦いで忙しかったから、その時の話も聞いてみたい、って。…オレも少し聞いただけなんだけど、本当にすごい戦いだったみたいだね」
「命の巫女たちが大変だったのよ。あたしはそんなにすごい戦いはしていないわ」
そうして、セリに連れられたあたしは、みんなが集まっている守りの長老宿舎へと足を踏み入れたの。
最初に目に入ったのは守護の巫女の笑顔。そのあとテーブルを見回して、リョウの姿を見つけた。リョウはあたしを見て少し微笑を浮かべたけど、すぐに表情を曇らせてしまったの。そしてがたんと音を立てて椅子を立ち上がると、勢いよくあたしに向かって歩いてきたんだ。
「おい、おまえ。どうしてこんな状態のユーナを連れてきたんだ!」
リョウが掴みかからんばかりに言ったその視線はセリに向けられていた。周りにいたみんなはリョウの変わりように呆然としている。
「この状態でこんな大勢の前でしゃべれる訳ないだろ! ユーナは俺が宿舎につれて帰る。文句ないな」
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