「やだ、泣かないで祈りの巫女。それより、身体は大丈夫なの? どこか怪我をしたりしていない?」
守護の巫女に声をかけられて、あたしはどうにか笑顔を浮かべて首を振った。どこも痛くないはずだけど、今はカーヤに抱きつかれていて、自分でちゃんと確かめることはできなかった。
「平気よ。怪我もないし、ほかにおかしいところもないわ」
「そう。それなら本当によかった。…カーヤ、そろそろ祈りの巫女を放してあげて。あなたの気持ちは判るけど、いつまでもこんなところに寝かせておいてはいけないわ。疲れているでしょうし、ちゃんとベッドで休ませてあげないと」
「ええ、判ってる。…ユーナ、立てる?」
再びカーヤに助けられながら、あたしはふらつく身体をなんとか立たせた。ちょっとだけ身体が重い。それを感じて、あたしはまた少し不安になっていたの。影の世界で変わってしまったあたしの身体は、ちゃんと元の身体に戻ってるんだろうか。
「村のみんながね、祈りの巫女を心配して、広場に集まってきているの。ほんの少しだけでいいわ。あなたの無事な姿を見せてあげて」
そう言ったのは聖櫃の巫女で、それであたしは思い出したの。影の世界へいたとき、あたしのために幸運を分けてくれたみんなのことを。
「聖櫃の巫女、あたし、みんながあたしのために祈りを捧げてくれた声を聞いたわ。あれは聖櫃の巫女が教えてくれたことなの?」
聖櫃の巫女は、まだ修行中だったあたしに祈りの方法を教えてくれた。もしも村人に祈りを教えた人がいるなら、それは聖櫃の巫女しかいないって思ったから。
「そう。あなたにはみんなの祈りが届いたのね。…私の力じゃないわ。村のみんながあなたを想っていた。それは、祈りの巫女が今まで村のために祈りを捧げてきた、その気持ちが村人全員に伝わっていたからなのよ」
「あたし、みんなの祈りを受け取ることができたの。だからこうして生きてる。村のみんながいなかったらあたしは死んでた――」
最後の方はほとんど独り言のようにつぶやいて、あたしはふらふらと神殿の扉へ向かって歩き出した。開け放たれた扉の向こうにたくさんの人の気配がある。両側をカーヤと守護の巫女に支えられながら、神殿の扉をくぐると、とたんに人々の歓声が飛び込んでくる。
そのあと、笑顔で押し寄せてくる人々にどんな言葉で感謝の気持ちを伝えたのか、あたしははっきりと覚えていることはできなかった。
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