呆然と辺りを見回しながら、次第に思い出してくる。あたし、影の世界から村へ帰ってきたんだ。次元の門は、あたしを村の神殿へと導いてくれたんだ。
「リョウ!」
 抱きついたままのカーヤを押しのけるようにしてあたしは思わず叫んでいた。身体を起こしてきょろきょろと見回す。背後に見つけたリョウは既に目覚めていて、まだ眠ったままの命の巫女たちを揺り起こしているところだった。リョウはあたしの呼び声に振り返ってうなずきかけてくれたから、ほっとしたあたしはまた周りのことを一瞬忘れてしまっていた。
「大丈夫よ祈りの巫女。リョウも、それからシュウと命の巫女も無事よ」
「どうしてユーナはそうなの? あたしがどんなに心配しててもけっきょくはリョウが1番なんだから!」
 更に力を入れて抱きついてくるカーヤの声に涙声が混じっていて、それであたしはずいぶん驚いてしまったの。やっと、現実に焦点が合ってくる。カーヤはあたしのこと、すごく心配してくれていたんだ。カーヤだけじゃない。守護の巫女も、それから見えない場所にいるたくさんの人たちも。
「カーヤ、ごめんなさい。あたし…」
「謝るようなことじゃないわよ! だって、あたしが勝手に心配してただけなんだから! ほんと、どうしてあたし、ユーナの世話係になんかなったのかしら」
「…ありがとうカーヤ。あたし、すごく嬉しい…」
「バカ! お礼なんか言わないでよ! 本当にユーナって嫌な子――」
 申し訳ない気持ちと、嬉しい気持ち。あたしの中にその2つがどんどん大きくなっていった。あたし、村のみんなに黙って影の世界へ行った。それなのに、みんなはこんなにあたしのことを心配してくれていたんだ。そして、あたしが無事で帰ってきたから、こんなにも喜んでくれている。
 ここはあたしが生きている村。心の底からそれを感じて、あたしは自然に涙を浮かべていた。
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