「オレは別に遊んでる訳じゃ…」
「そう? あたしにはシュウとリョウが2人してじゃれ合ってるようにしか見えないけど?」
「…おまえ、気色悪いこと言うなよ。なんでオレがこんな奴と」
「だって、リョウが乗ってくれなかったら2人で口げんかなんてできる訳ないでしょう? リョウがシュウのレベルに合わせてくれてるんだって、いいかげん気づきなよ」
シュウはまだなにか言いたそうに口を尖らせていたけど、リョウは苦笑を浮かべていたの。どうやら命の巫女が言ったことは本当みたい。リョウはシュウと喧嘩することを心の中で楽しんでるんだ。
なんだか不思議。リョウがすごく大人に見えるの。こんな気持ち、今のリョウには感じたことなかったのに。記憶をなくして目覚めた頃のリョウはまるっきり子供のようで、こんなに大人に見えることはなかったのに。
まるであたしのリョウが戻ってきたみたいに思えるよ。まだ村が平和だった頃、オミにあたしとの結婚を考え直せって言われて、大人の微笑みでかわしていたあの頃のリョウみたいに。
「そうだな。命の巫女の言うとおりだ。喧嘩で時間をつぶしてる場合じゃない。身体が動くうちに手分けして脱出方法を探そう」
リョウがそう言って、ようやくシュウは自分がからかわれてたことに気づいたんだ。シュウが無言のまま壁に向かって歩き出したから、あたしたちもそれぞれ別の方向へ手がかりを探しに行った。
あたしにはシュウが言う床の仕掛けがどんなものか判らなくて、ただ闇雲に真っ白な壁と床を見つめていただけだった。この部屋は今までのどんな部屋とも違っていて、壁にも床にもなんの模様もついていなかったの。だから、もしもなにか変化があればすぐに判りそうで、広い部屋の中をほとんど小走りで探していたんだ。そんな時間はさほど長くはなかった。程なくして、なにか大きなものが引きずられるような音が聞こえて、霧の中を駆けていくと壁の一部が大きく開いているのを見ることができたの。
「やっぱり床の仕掛けだったよ。まったく、嫌味なくらいセオリーどおりだ」
どうやら仕掛けを見つけたらしいシュウが振り返って言う。うしろから足音が聞こえて、すぐに命の巫女とリョウも集まってきていた。
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