「…今、無理に話すことはないけどな。話せるようになったらいつでも聞いてやる。――命の巫女たちだ」
え? もしかしてリョウ、今あたしが自分の戦いを話すのを待っててくれてたの?
それで気づいた。あたし、リョウに詳しいことはなんにも話してない。それはあたしが無意識のうちに避けていたからだ。あの扉の部屋でのリョウとのやり取りを、このリョウに話すことを。
「やっぱりここにいたんだ。リョウ、無事だな?」
「どうにかな。おまえらも動けるようになったか」
「思いのほかこの身体は単純にできてるらしい。食事をしたらすぐに回復してくれたよ。とにかくこの寒い部屋から早く脱出しないと」
「次元の扉は開けないのか?」
「さすがにそこまでは回復してねえな。リョウ、あんたも動けるようなら協力してくれ。どこかに脱出できそうなところがあるはずなんだ。たとえば床に隠し扉の仕掛けがあるとか」
いつの間にか近づいてきたシュウとリョウが会話している声が聞こえた。振り返るとそばに命の巫女もいる。2人とも寒そうに身体を震わせていたけれど、さっきみたいに1歩も動けないというほど疲れてはいないみたいだった。
「この霧の中で床の仕掛けを探すのか? しかもこんな広い部屋で」
「あのなあ。てめえがブリザードなんか吐くからここまで真っ白になったんだろうが。まるでオレが悪いみたいに言うなよ」
「あの怪物が寒さに弱いって言ったのはおまえだろ。ブリザード浴びてもまったく動きが鈍くなんかならなかったけどな」
「オレは奴が熱に強いって言っただけだ! こんなに広い部屋で気温を下げたらオレたちの方が凍るって、先に忠告もしただろ?」
「だったらほかにどんな作戦があったって言うんだ。左の騎士が適切な作戦を提示できもしねえで文句ばっかり言ってるなよ」
「文句を言ってるのはどっちだよ! リョウ、てめえこんなところまできて――」
「ストップ! 2人ともそこまでよ。喧嘩が楽しいのは判るけど、今はそんなことして遊んでる暇なんかないんだから」
そう、止めに入ったのは命の巫女で、2人とも一瞬あっけに取られたように口を閉ざした。
次へ
扉へ
トップへ