淡々と話しながら、リョウは食事を口に運ぶ。そんなリョウを見ていたら、リョウがドラゴンと呼ばれる生き物に変わったなんて信じられないよ。すごくきれいで高貴な生き物だった。リョウの世界には、あんな生き物も存在するんだ。
「リョウが怪物に首を噛まれてるのを見たわ。傷はないの? 痛みは?」
「大丈夫だ。あの闘いの傷は残ってない。その瞬間は痛みもあったけどな、今は感じない」
 ――触れることが怖かった。あの時、あたしがリョウを殺した。
 リョウは自分を殺したあたしをどう思っているのか。もしかしたら、無意識にでもあたしを怖いと思ってるかもしれない。自分を殺したあたしを恨んでるかもしれない。今は普通に接してくれているけれど、ふとした瞬間からあたしを避けるようになるのかもしれない。
 リョウを生き返らせたこと、あのときのあたしは一瞬だけ後悔した。そんなあたしの心はリョウに伝わっていたかもしれない。それを確かめるのが怖いの。リョウが本当はあたしのことをどう思っているのか、って。
 恐れられて、恨まれて、嫌われるのが怖い。もう少し、ほんの少しの間でしかなかったけど、あたしがリョウのそばにいられる時間だけでもリョウの恋人でいたい。ほんの少しの時間。あたしはこの時間を守るために、あたしのリョウを切り捨てたんだ。
 幼い頃からあたしを愛してくれたあのリョウ。あたしのリョウが生きている時間と、今ここに流れている時間。目の前に2つの時間が提示されたとき、あたしはこの時間を選んだの。それはあたしが、今ここにいるリョウを選んだ、ってこと――
「おまえは? 怪我はないのか?」
「うん、大丈夫。リョウも命の巫女たちもすごく大変な思いをしたのに、あたし1人だけ楽をして申し訳なかったくらい」
「楽ってことはなかっただろ。おまえはおまえ自身の戦いをしていた。俺にはおまえの戦いがどんなものだったのかは判らないけどな、それだけは理解してるつもりだ」
 そう言ってリョウは微笑む。少なくとも、リョウはあたしを理解しようとしてくれている。それは判ってた。だけど。
 ここに流れているほんの少しの時間。あたしとリョウとの間には、もうすべてを理解し合うだけの時間はないんだ。
次へ
扉へ
トップへ