「たぶん命の巫女たちが持ってると思うわ。あたし、もらってくる」
「悪いな。奴らはどうしてる。無事なのか?」
「2人とも疲れてぐったりしてるの。体力を限界まで使い果たしちゃったみたい。このままでいたら凍えて死んじゃうって言ってるのに動こうとしないの」
「だったら飯を食わせてやれ。腹が膨れれば寒さも和らぐだろう。…ほんとにな。あれだけ苦労して影を倒しておいてここで凍死したら喜劇だ」
リョウがそう冗談を言って、あたしも微笑みを返しながらまた立ち上がって歩き出した。命の巫女たちのところまで行くと、2人とも身体を起こして自分たちだけ食事を始めていたの。あたしは簡単にリョウのことを報告したあと、食料が入った袋を1つもらってまたリョウのところへ戻った。それから2人で向かい合って食事を始めたんだ。
「ねえ、リョウ。リョウはやっぱりお腹が空くの? だって、リョウは肉体の限界を超えたんだ、ってシュウが言ってたのに」
「あいつの理屈はどうだか知らないけどな、どうやら腹は減る」
「ちゃんと教えて。あの時リョウはどうなったの? どうやって元に戻ったの?」
リョウは少しだけ考えるそぶりを見せて、そのあと言葉を選びながら話し始めた。
「あのときのことはぜんぶはっきり覚えてる訳じゃない。…俺は、死んでたんだよな。たぶん、あのときに感覚が解放されたんだ。自分の感覚に刻まれた身体の情報を別のものに変化させる方法が判った気がした」
あたしがリョウを殺した。あのときに、リョウは本当に死んでたんだ。感覚を解放するって言葉をあたし自身が実感することはできなかったけど、なんとなく想像することはできる気がしたの。
「だから影が怪物になったとき、俺も俺が知る生き物の中で1番強いものに変われる気がした。今それをやれって言われてもできないだろうが、あのときの俺にはそれができた。むしろ元に戻るときの方が大変だった。1度ドラゴンになっちまったら、人間の感覚の方を忘れてたんだ。必死で人間の感覚を思い出そうとして、だからだろうな、今ではもう自分以外の何かに変われるとは思えない」
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