何度か顔を叩いたり、冷え切った手足をマッサージしてあげていると、ようやくリョウは少しずつ意識を取り戻してきたみたいだった。
「リョウ、気がついた? あたしのことが判る?」
冷たい頬に手を当ててあたためてあげる。リョウは少しの間意識がはっきりしないみたいで、目の焦点を合わせるのも辛そうに見えた。
「…ユーナ。…生きてるの、か…?」
「大丈夫、生きてる。まだここは天国じゃないよ。…どうして? リョウ。どうしてあんな無茶なこと――」
そのときとつぜん、リョウがあたしの手を引っ張ったから、あたしはリョウの胸に倒れ込んでしまったの。リョウの身体が冷たい。震えることすらできないくらい冷え切ってしまった腕で、リョウがあたしを抱きしめる。
「無茶をしたのは誰だよ。…おまえ、まだ生きてるのか? これからおまえは死ぬのか…?」
え? …そうか、リョウはあたしに祈りの力が戻ったときに話を聞いてなかったんだ。もしかしてリョウが言ってる「生きてるのか?」って、リョウ自身のことじゃなくてあたしのことだったの?
「あたしは大丈夫だよリョウ。村のみんながね、あたしに幸運を分けてくれたの。あたしのために祈りを捧げてくれたの。みんなの幸運は限られた分しかないのに、それをあたしのために使ってもいい、って」
「…村人が…幸運を…?」
「うん。村のみんながあたしのために祈ってくれてる声が聞こえたの。だからあたし、死ななくてすんだ。もうあたしのことは心配ないよ。それに、みんなにもらった幸運で、扉の色を変えられたの。だからもう影が村を襲うこともないわ」
話しながら、あたしはリョウの冷たい身体を抱きしめた。少しでもあたしの熱がリョウに伝わるように。
「リョウ、あたしたち、勝ったんだよ。…あたし1人じゃ勝てなかった。リョウがいて、命の巫女とシュウがいて、あと、村のみんながいたから勝つことができたの。…リョウ、やっと終わった――」
リョウの体温が戻ってくる。それにつれて、あたしも少しずつ実感し始めたのかもしれない。まるで固まっていた感情の糸がほぐれるように、心の端からしだいに広がってくるの。大きく息を吐き出したとき、あたしは自然に涙を流していた。
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