再び祈りから戻ると、その部屋では既に戦闘は行われていなかった。しんと静まり返っていて、シュウと命の巫女が呆然と崩れ落ちている。あたり一面真っ白にけぶっていてリョウの姿は見えなかった。あたしに気づいた命の巫女が振り返って、少し驚いた顔をする。
「どうしたの? 祈りの巫女。…なにか悲しいことがあったの?」
 頬に手をやって、あたしも命の巫女がなにに驚いたのか気がついた。勢いよく水滴をぬぐって笑顔を作る。
「なんでもないわ。…リョウは?」
「…ごめんなさい。今はあたし、立てなくて」
 命の巫女がものすごく消耗しているのが判った。ここは寒くて、あたしも手足が凍りそうになっていたけど、でもリョウのことが心配で必死に立ち上がったの。白い霧をかき分けながらリョウを探す。その部屋はものすごく広くて、少し時間もかかったけど、ようやく床に倒れているリョウを見つけたんだ。
「リョウ!」
 リョウはもう人の姿に戻っていたから、あたしは駆け寄って抱き起こした。声をかけても顔をたたいても返事をしない。唇から白い息がもれるのが見えたから、少なくとも死んではいないみたいだったけど、いつまでもこんなに寒いところにいたらほんとに死んじゃうよ。
 あたしは1度命の巫女たちのところに戻って、ぐったりしている2人の肩をゆすりながら声をかけた。
「さあシュウ、命の巫女、立って。もう影は来ないわ。扉の色をぜんぶ水色に変えられたのよ」
「それは良かった。おめでとう、祈りの巫女。…影が来ないならさ、もう少しだけ休ませてくれないか? オレもう1歩も動きたくない」
「どうして? そんなこと言ってたらここで凍えちゃうわよ。せっかく影を倒せたのに、こんなところで凍死しちゃってもいいの?」
「ユーナァ、炎の玉出せるかぁ?」
「出せる訳ないでしょお? 力なんか、ぜんぶどころかマイナスまで使い果たしてるよ」
「ほら、オレたちは体力を力に変換してるようなところがあるから。ここまで疲れたらどうしようもないんだ」
 この分だと2人はぜんぜん頼りになりそうになくて、あたしは再びリョウを起こすために駆け出していった。
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