村の人たちを幸せにする。それが、祈りの巫女であるあたしの仕事。
 リョウの言う通りにすればきっと村の人たちは幸せになる。それはあたしの仕事が成功したってことだよね。あたしは村のみんなの命を守って、幸せにすることができた、って。
 …でもね、リョウ。あたしはどうしても影を信じることができない。影の言うとおり扉を元に戻して、たとえ過去に戻れたとしても、あたしがリョウを生き返らせたあとに再び村を襲わないでいてくれるとは信じられないの。だって、さっきあたしが力を使い果たしたときも、影は村への攻撃をやめてくれなかったんだもん。それに、たとえリョウがブルドーザに殺されたあの時、あたしがリョウを生き返らせる道を選択していたとしても、そのあと影が攻撃をやめたなんて思えないんだ。
 ――神様に祈りを捧げる。最後に残ったピンク色の扉を、水色に変えて欲しい、って。
 この祈りの力は、村のみんながあたしのために祈ってくれたその証。そんな大切な力を、影のために使うなんてことはできないよ。
「ユーナ、どうして。影の言うとおりにすればオレはずっとユーナのそばにいられたのに」
 リョウの声は不自然な響き方をしていて、あたしは影がこの世界に留まれなくなっているのだと知った。
「あたしもそばにいたかったよ。ずっと一緒にいて、リョウと2人の未来を生きていたかった。だけど…。あたしのリョウは死んだの。それが真実で、嘘は真実に変わったりしない。あたしはこれからも、リョウがいない時間を独りで生きていかなくちゃならない」
「歴史が変わるんだ! その歴史は嘘なんかじゃないんだぜ。今からでも遅くない。オレが生きている時間をおまえの真実にすればいい」
「リョウと話せて嬉しかった。影が変身したリョウは変なリョウばっかりだったけど、今のリョウはすごく本物っぽかったよ。声だけだったのが残念なくらい。…ありがとう、リョウ」
「ユ…ナ、どうし、て…」
「さようなら! ――そして、ごめんね」
 そう、言い残して、あたしはもう何も考えずに神様から離れた。
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