「過去に戻ってオレを生き返らせる祈りをすればいいんだよ。そうすれば祈りの巫女に引き継がれた幸運も使い果たせる。影はそれで妥協するって言ってるんだ。ユーナが力を使い果たした時点で、もう村を襲うことはしない、って」
 いったい、なにを言っているの? 過去に戻ってリョウを生き返らせる…?
 本当にそんなことができるの? …確かに、影は過去に戻れるって、そう言ってた。13代目の両親を殺すために過去に戻ったんだ、って。今、あたしがこの扉を元に戻せば、影は過去を変えることができるの? あたしは本物のリョウを生き返らせる祈りをすることができるの?
「オレだけじゃないんだよユーナ。あのあとの影の来襲で殺されたたくさんの人たち、その人たちを生き返らせることもできるんだ。壊された村もすべて元に戻る。おまえが人々の悲しみを癒す必要だってなくなるんだ」
 もしもリョウが死ななかったら、あたしは命の巫女のリョウを呼び出したりもしなかった。村の危機が去っていれば命の巫女とシュウも村へやってくることはなかった。過去に戻れば、本当に多くの人たちが救われる。あたしはただ、リョウを生き返らせる祈りをするだけでいいんだ。
 リョウの言葉には説得力があって、あたしはその言葉の魅力に引き込まれた。だって、本当にそうなったら、どれだけ多くの人が幸せになれるか判らないんだもん。あのリョウだってきっと、こんな危険な村へはきたくなんかなかったよ。あたしの恋人のふりをして、命の巫女とシュウが仲良くしてる姿なんかきっと見たくなかった。
「扉を元に戻したら、村のすべてを元に戻してくれるの?」
「すべてを、って訳にはいかない。ユーナの両親やマイラたちまでは元に戻せないからな。だけど、運命の巫女やセト、そのとき死んだ80数人の命は救われる。それだけでも十分だと思わないか?」
 そうだ。リョウが死ぬ前に死んだ人たちは元に戻らない。でも、それでも、村をあそこまで壊されないですむのならその方がずっといい。
「ユーナが決断するんだ。これから先、村を復興するのはものすごく大変なことだ。そんな村人たちの苦労もずいぶん少なくなるんだよ。ここでユーナが扉を元に戻すだけで、村人ぜんいんが何らかの形で幸せを得ることができるんだ」
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