もう、命の巫女たちの声すらも聞こえない。目の前は真っ暗で、静寂の闇の中を漂っている感じがする。本当はあたし、もう死んでいるのかもしれない。たとえ今この瞬間は生きていたとしても、このままなにもできずに死んでいくのなら、今でも死んでいるのと何ひとつ変わらないだろう。
 あたしは影を倒せなかった。神様に祈りを捧げて、命の巫女を呼び寄せて、もともとなんの関わりもなかったはずの3人の人間を不幸にしてしまった。この先きっと影は村へ一気に攻め込んで、守れる人が誰もいなくなった村を全滅させてしまうだろう。けっきょくあたしは誰も幸せにすることができないんだ。あたしは村の人たちの幸せを祈るために生まれた、祈りの巫女だったのに。
 リョウも、シュウも、死んでしまった。せっかくシュウが助けてくれたのに、あたしは村を救うことができなかったの。みんながあたしを村の希望だと言った。でも、本当はどう? あたしは、みんなの期待を集めながら、けっきょく絶望させることしかできなかった。
 だけどあたし、精一杯努力したよ。それは、少しは道を間違うこともあったけど、できる限りのことはしてきたと思う。
 それでも村を救えなかったあたしは、村のみんなの心の中で「期待を裏切った祈りの巫女」って呼ばれちゃうのかな。みんなの大切な家族を死なせて、大切な村を死なせて、村人を散り散りにしてしまった「絶望の巫女」だって。
(…を祈りの巫女に――)
 不意に、なにかが聞こえた気がした。あまりに遠くてほとんど聞き取れなかったけど、誰かの声のようなものが。
 あたしは考えるのをやめて、目一杯耳を澄ませてその声に集中したの。
(…は無事に産まれて――)
(…以上病気が広がら――)
(…れから順調に回復――)
(…表情が明るくなっ――)
(…のおかげで助かっ――)
 重なり合う声は途切れ途切れにしか聞こえなくて、あたしにはよく聞き取ることができなかった。
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