自分の身体が倒れたらしいってことはなんとか判った。そして、あたしに死の瞬間が近づいているんだってことも。
こんな風に死の瞬間は訪れるの? 力を使い果たした祈りの巫女は、最後は真っ暗な世界で何も残せずに死んでいくんだ。
せめてもう1度見たかったな。スノーなんとかじゃない、狩人の姿をしたリョウのこと。死者の世界へ行ったら、もう1度あなたに会うことができる…?
――違う。まただ。またあたしは逃げようとしてる。死の恐怖から逃げたくて、死に救いを求めようとしてる。
「祈りの巫女! 起きて! しっかりしてよ!」
大丈夫、命の巫女。あたしまだ死んでない。
「体温が下がってる。ユーナ、手足をさすって温めるんだ」
「だったら空間を閉じ込めて中だけあっためたら?」
「そんなことできるか?」
「できなくてもやるしかないよ! このままだとリョウのブリザードであたしたちまで凍っちゃうもん!」
リョウが戦ってる。もう、前と同じ失敗はしたくないよ。夕日の向こうに歩いていくリョウに、あたしは何も伝えられなかった。あの時見つけられなかった答えをあたしは見つけたんだから。
あたしの幸せに必要なのは、リョウが生きていてくれることだけ。
ほかのことは関係ないの。どんなにつらいことがあったって、あたしはリョウがいれば笑うことができる。どんなに楽しいことがあっても、それをリョウと分け合えなければなんにもならないの。あたしに必要なのはたった1つだけ。だからあなたは、毎日あたしにあなたの命を運んできてくれさえすればそれでいいんだ、って。
あたしの心の憎しみを植えつけたままでリョウと別れたくない。せめてあなたに感謝しているって、それだけでも伝えたいよ。だけどどうやったら伝えられるだろう。今でも少しずつ、確実に、あたしの身体は死んでいるのに。
次へ
扉へ
トップへ