「大丈夫、祈りの巫女。オレは君の村が滅びてとうぜんなんだとは思ってない」
 もう1度あたしに微笑んで、シュウはニヤニヤ笑っているシュウとそっくりな影に振り返った。
「あのさ、オレはおまえの言うことは理解したけど、だからって、はいそうですか、って受け入れるほどお人よしじゃない。畑は人間が手を入れなければ良い野菜を育てることはできないかもしれないが、それが良いかどうかを決めているのは人間の都合だ。畑に雑草が生えてたって野菜は生きようとする。結果雑草が生き残って野菜が滅んだとしてもそれは自然の摂理だ。村が生き残って周囲の国が滅びるならそれも正しい。そうだろ?」
 影のシュウは笑った顔のままで何も答えなかった。あたしは、自分が言えなかった答えをシュウが見つけてくれた気がして、シュウのことをものすごく頼もしく感じていた。
「そこでおまえに質問がある。――おまえを村から追い払うのにはいったいどうしたらいいんだ?」
 このシュウの質問にはあたしも、命の巫女やリョウも驚いていたの。だって、ふつう敵である影に影を滅ぼす方法を訊いたりなんかしないよ。そんなこと、ぜったい答えないのは判りきってるし、万が一答えたからってそれが本当の答えである確率なんてゼロに等しいもん。
「シュウ! あ、あんたいったいなに考えてんの? そんなの答える訳ないじゃん!」
「黙ってろよ。今はこいつと話してるんだから。…で、どうなんだ? 左の騎士。おまえはどうしたらあの村に手を出せなくなるんだ?」
 影のシュウは笑った顔のまま表情を変えなかったけど、あたしには影がシュウの態度を楽しんでいるみたいに見えた。
「そうだな。方法はいくつかない訳じゃないが、その中でおまえたちにできるのはたった1つだけだ。――祈りの巫女の祈りが場の干渉条件を変えられる。扉の色を変えるんだ」
「扉の色? そうか、あの場所にあった次元の扉の条件を変えるのか。そうすればおまえはあの村にきても村の歴史に干渉できなくなる」
「無理だろ? 祈りの巫女は既に祈りの力を失ってるんだ。祈りの巫女の祈りがない以上、オレにはもう怖いものなんかないんだよ」
「だったらあたしが祈るよ! あたしにだって祈りの力は使えるんだから!」
「おまえにも祈りの力は使えないさ、命の巫女。もともとおまえの力は祈りの巫女の幸運を借りてるだけだからな」
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