シュウの言葉にはっとして、あたしが思い出したのはカーヤのことだった。植物の気持ちが判るのだというカーヤの家は畑を作ってる。カーヤが引き抜く雑草たちは、カーヤにどんな言葉を伝えるんだろう。
 畑の野菜のことを思ったら雑草は邪魔な存在だけど、雑草だって生きてるんだもん。影にとって、あたしや村は雑草と同じなんだ。あたしたちだって同じことをやってる。シュウの言うとおり、影が言うことはけっして間違ってはいないんだ。
「雑草、って。…あたしたちは草じゃないよ。人間だよ! そこらへんに生えてるだけの草と一緒にしないでよ!」
「おまえなあ。植物に感情がないって決め付けるなよ。ありふれた鉢植えだってジェットコースターに乗せれば恐怖を感じるんだぜ」
「あたしは信じるわ」
 2人の言い合いにどう割って入ればいいか判らなくて、けっきょくその一言を言うことしかできなかった。でも、言葉は足りなくても、2人の注意をあたしに向けることはできたみたい。2人の視線をいっぺんに浴びてちょっとだけ戸惑ったけど、一呼吸置いてから続けた。
「影から見てあたしたちがどういう存在なのか、よく判ったわ。命の巫女、カーヤは植物の声を聞くことができるの。だからカーヤにはきっと雑草の声も聞こえてる。それでも畑の野菜のためには必要なことだから、カーヤは雑草を引き抜くのね」
「カーヤが?」
 シュウが無意識のように声を出して、ほんの少しだけ表情を歪ませた。まるでカーヤに同情するかのように。
「雑草を抜かなかったら畑の野菜はうまく育たないわ。あたしたちの村が雑草なら、影が引き抜こうとするのはとうぜんなのかもしれない。でも――」
 それきり、あたしの言葉は続かなかった。影の言うことは理解できる。あたしたちがなんの罪悪感もなくまったく同じことをしているんだってことも。
 でも、だからって、村を滅ぼされていい訳がないんだ。うまく言えないけど、あたしたちはちゃんと生きてる。あの場所で生活して、楽しいこともつらいこともたくさん経験して、やがては死んでいく。雑草だって生きてるんだって言われちゃったらそれまでなんだけど。
 リョウが言葉を失ったあたしの肩を強く抱き寄せてくれる。目の前でシュウが微笑んでくれる。
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