「狭い土地で効率よく作物を作る方法だって研究されてる。今はまだ誰もそのことに気づいてないが、数十年後にはこの村と周辺の国々との文化レベルの差に気づく国が現われる。誰だって自分の子供を早死にさせたいなんて思わないだろ? 楽をして多くの作物が得られればいいと思うだろ? もちろん村の神官たちだってそう思うさ。喜んで自分たちの技術をほかの国々に伝えて、結果武力制圧を招くことになるんだ」
 あたしには、周辺の国がどうして村を武力で制圧しようとするのかが判らなかった。その前までなら判るの。村の外にいる人たちが困っていて、あたしたちの村がその人たちを助けることができるのなら、あたしだって喜んで村の技術を伝えようとするだろうから。
 でも、そのあたしが理解できなかった部分まで、シュウには理解できていたみたいだった。
「確かにな。どこの国でも村を自国の管理下に置きたいと思うだろうな。で、おまえとしては爆発的な人口増加は本意じゃないと?」
「長期的に見れば、死亡率が落ちれば自然に出生率も落ちる。むしろ問題なのは出生率の低下の方だ。イデンシの多様化が妨げられるからね。――話をそらすなよ」
「自分がそらしてるんだろ? オレのせいにするなよ。…で? 人口増加じゃないなら文化の落差のなにが問題なんだ?」
 2人のシュウは周りのことなんか忘れて夢中になって話を続けていたけれど、お互いに少し話しづらそうな感じだった。影は憮然とした顔をしているのに、なにか理由があるのか、シュウの姿をやめようとはしなかったの。いつの間にかリョウがあたしの肩を抱いてくれている。まるで、いつあの2人が争いになってもあたしを守れるようにと準備しているみたいに。
 できることなら、あたしが死ぬまでリョウには知られたくなかった。あたしがリョウを殺して、生き返らせるための祈りをしたことであたしが死ぬことになったってこと。だからシュウが時間を引き伸ばしてくれているのが、あたしにはうれしかったんだ。…きっとシュウにはそのつもりはなかったんだろうけれど。
「文明の進歩が加速することだ。一定のレベルで繁栄と衰退を繰り返していれば、人間は自然のバランスの中でどうにか生きていくことができる。だけど、1度加速化が始まると種族としては滅亡に向かうんだ。シュウ、おまえたちの世界のように」
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