なぜか違和感がある。いったい影は何の話をしているの?
「おい、おまえ。…まさか、祈りの巫女が滅ぼすおまえの世界って、彼女の村と同じ次元に存在する世界なのか?」
 シュウは、あたしと影とのさっきまでの会話を知らないはずだった。もしもシュウが今の会話だけで推測してこの疑問を投げかけたのだとしたらすごいよ。だってこのシュウの言葉と影の答えこそが、あたしの違和感の正体だったんだから。
「ああ、そうさ。13代目の祈りの巫女が回りの国々をすべて破壊に巻き込むんだ。たまたま間の悪いときに村に攻め込んだ軍勢があってな。その軍が所属する国ともども周囲のほとんどの国を13代目の祈りの巫女が滅ぼしちまう」
「攻め込んだ原因は何だ。村に保存された書籍を狙ったのか?」
「ああ。馬鹿な国王が力で文化を奪おうと、触れちゃいけないものに手を出したんだ。…小競り合い程度ならな、いいんだよ、オレは。若い男が争いで死ぬのは人間の間引きとして効率がいい。だけど13代目のあの力はほとんど反則だ。あれのせいでせっかく育てた文明が全滅してくれた」
「育てた、って、要はおまえに都合がいい程度に発達させた文明だろ? あの村は1500年間に渡って地域の文化を保存してる。それもおまえが管理する世界の一部である以上、存在する意味はあるはずだ。むやみに消すべきじゃない」
「おまえ…コピーのくせに生意気なんだよ」
 そう、一言つぶやいたあと、影の姿が崩れて今度は神官の衣装を着たシュウそっくりに変わっていたの。この人は、たぶんあたしが死んだ歴史の中で生きていたという、祈りの巫女の右の騎士だったシュウだ。あたしはこの変身を見慣れてきていたけど、初めて見たほかの3人は少なからず驚いたようだった。
「根本的な問題は祈りの巫女なんかじゃない。世界の中でもトップクラスに入るほど気候が安定した豊かなあの土地で、1500年も知的な活動だけを続けている神官などという集団がいることだ。周辺の国が2〜300年で盛衰を繰り返しているというのに、あの村ではさまざまな研究成果が無に返ることはない。今ではあの村で開発された製薬方法がたった1つでも村外にもれるだけで、年間に死亡する乳幼児の人数が半分以上減ることになるんだ」
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