「リョウ! …良かった…!」
 あたしの笑顔に答えるようにややぎこちない微笑を見せたリョウは、命の巫女とシュウの顔を見て、とたんに表情を変えてガバッと身体を起こした。そして、2人のうしろでニヤニヤ笑いながら見守っていたもう1人のリョウを見つめたの。周囲は重い空気に包まれている。命の巫女とシュウの表情はけっして、リョウが助かった喜びに満たされてなんかいなかったから。
「…いったい、なにがあった」
 そのリョウの声はまるで絞り出すようでさほど大きくはなかった。そのとき、重苦しい空気を引き裂くように、リョウの姿をした影が笑い始めたの。
「フハハハ…、とうとうやった! やっと祈りの巫女が力を使い果たしてくれたぜ! これで13代目に引き継がれる力がなくなった!」
 そうか、影はあたしに祈りの力を使わせたくて、あたしがリョウを殺すように仕向けたんだ。わざとあたしを挑発するような言葉を言って、あたしにリョウを生き返らせる祈りをさせた。一瞬、影にはめられたことを悔しく思ったけど、でも思い直したの。あたしが力を使い果たしたのだから、もう影が村を滅ぼす理由はないはずだ、って。この先たとえ13代目の祈りの巫女が生まれたとしても、あたしから引き継がれた幸運がなければ、影の世界を滅ぼすほどの力は出せないはずだもの。
「あたしは力を使い果たしたわ。これでもういいでしょう? 村を滅ぼすのはやめると約束して!」
「ハッハッハッ、残念だけどそれはできないよユーナ。あの村を残せばまた1000年後に世界を滅ぼす力が生まれるからな。こんなチャンスをオレが見逃すわけがないだろう?」
「そんな…! それじゃ話が違うよ! あなたは13代目の破壊の祈りを阻止したくて村を攻撃したんでしょう? 13代目の力が失われたのにどうして村まで滅ぼさなきゃならないの? この先の祈りの巫女は破壊の心なんか持たないかもしれないじゃない!」
「うっせーな! 目障りなんだよ、あの村。周りの国はてきとうに小競り合いさせながら間引きできるのに、あの村だけはいつも祈りの巫女の祈りに守られてる。早く文明を発達させればそれだけ世界の破滅も早まるってのに、あの村は文化を保存して、発展を加速させようとしてる。医学も技術も国の滅亡とともに失われるべきなんだ。この世界の人間は高度な文明なんか持つべきじゃねえんだよ」
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