今まで、これほど純粋な気持ちで祈りを捧げたことはなかっただろう。その証拠に、神様の気配はそれまであたしが感じたことがないほど真摯な雰囲気をたたえていた。この祈りが神様に聞き届けてもらえないはずなんかなかった。どのくらいの時間が経ったのだろう。あたりが徐々に強い光に包まれてゆくさまが、目を閉じたあたしにも感じられた。
 祈りの力がリョウという存在の意味を変えていく。命を失い、過ぎ去った時間の中にしか存在を許されなかったリョウが、再び未来を取り戻していく。
 それに伴って、あたしは自分の祈りの力が消えてゆくのを感じたの。…あたし、とうとう祈りの力を使い果たしたんだ。もうあたしの中に神様から与えられた幸運はひとかけらも残っていない。力を使い果たしたあたしは、さっき影が予言したとおり、これからいくらも経たないうちに死の瞬間を迎えるだろう。
 静かに目を開けたあたしが最初に見たのは、その広い部屋の壁全体を覆いつくすほどのピンク色の光だった。
「祈りの巫女。…これはいったいなに…?」
 その命の巫女の言葉には答えず、あたしは倒れたリョウを振り返った。リョウの胸には傷はなかった。そして、規則的に上下する胸の動きが判る。
「…すごいな。これが祈りの巫女の力の正体か」
「シュウ、それってどういう意味? 壁の文字がピンクになったことと関係あるの?」
「説明はあとだ。――リョウが目覚める」
 シュウの言うとおりだった。やや戸惑いを含んだ沈黙の中、その場にいる全員の視線を一身に集めたリョウがゆっくりとまぶたを動かす。まぶしそうに2、3度瞬きをして、開いた眼球はもう赤く染まってはいなかった。天井を見上げたリョウの注目を引きたくて、あたしがリョウに呼びかけると、触発されるようにほかの2人も次々とリョウの名前を呼ぶ。
「リョウ!」
 その声に反応したリョウはやがてあたしの姿を見つけて、声がうまく出せないのか、口の中だけであたしの名前をつぶやいた。
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