まるで自分の存在を主張するかのように割り込んできた影の言葉に、振り返ったあたしたちは一瞬言葉を失っていた。あたりを沈黙が包み込む。その沈黙に満足したかのような微笑を浮かべた影は、リョウの顔と声で再び話し出していた。
「たかがコピーになんの価値があるんだよ。しょせんはオリジナルのリョウの姿を映しただけのただのコピーじゃないか。そんな奴のためにおまえが命をかける価値なんかないだろ? そいつは、おまえが自分の命と引き換えに救う意味なんかないさ」
影が言うコピーという言葉の意味を、あたしは理解することができなかった。それよりもあたしは、リョウの命を救えるという命の巫女たち2人の言葉を、影が否定しなかったことの方に希望を抱いていた。
「コピー? いったい何のことだ」
「おまえらのことさ。おまえらは、祈りの巫女が祈りの力で作り出した村人のコピーなんだよ。これほどそっくりな人間が集まった場所がそれぞれ別の世界に同時に存在するのが、ただの偶然だなんてまさか思ってないだろ? おまえも、おまえも、おまえたちの両親や近所に住んでる人間たちも、ぜんいん祈りの巫女が祈りで作り上げたコピーの人間なんだよ。祈りの巫女が自分の村を救うために神に祈りを捧げて、神が村を救うためだけの存在としてあの場所に村のコピーを作ったんだ。時間も空間も跳び越えてな。――クックックッ、やめておけ、祈りの巫女。下手すれば共倒れになるだけだ」
再びろうそくに火を灯したとき、それまでシュウたちと話していた影のリョウが話しかけてきた。でもあたしはもう構わなかった。この祈り、力をすべて使い果たしてでも、あたしはリョウの命を救うんだ。その結果あたしが死ぬのならそれでも構わない。リョウはあたしがこの戦いに巻き込んだんだもん。そんなリョウが死ぬよりはあたしが死ぬ方が正しいことだから。
さびしくなんかないよ。だって、リョウはいずれあたしの傍らから消えてしまう人だったんだもん。2代目祈りの巫女の騎士だったジムと同じように、リョウには生き残って誰かと幸せになる権利があるんだ。
今、あたしのそばにいるのは神様だけ。――神様、お願いします。リョウの傷を治して、リョウを生き返らせてください。
リョウはこんなところで死んではいけない人なんです。命の巫女たちと一緒にもう1度自分の村へ帰って、そこにいる誰かと恋をして幸せになるべき人なんです。リョウが生き返るのなら、代わりにあたしの力のすべてを捧げます。12代目祈りの巫女の命さえも。
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