言いながら、母さまの唇が不自然なほどにつりあがる。その表情に殺意を感じたあたしはがたがた身体を震わせながらじりじりとあとずさった。無意識に探った片手が荷物の入った袋を倒して中身がこぼれる。
「いや…。母さまの姿でそんな顔をしないで…!」
近づいてくる影の姿が今度は父さまに変わる。片手をあたしの肩に、そしてもう1つの手であたしの首を掴んで。
「ユーナ、おまえは生まれてくるべきじゃない子供だったんだ。村に不幸を呼び込むためだけに生まれてきた呪われた子供。…でも、それはおまえの責任なんかじゃない。おまえを生んで育ててしまった父さんの責任だ。だから父さんがこの手でおまえを殺してあげよう」
「…いや…痛い。…やめ…!」
「そうか。ユーナには父さんよりも彼の方がいいかな」
そう言ったあと父さまの輪郭は失われて、代わりに現われたのはリョウだった。あたしの息が止まる。…ひどいよ。どうしてこんなときにリョウの姿になるの? リョウがあたしを殺そうとするなんて!
「オレが死んだのはユーナ、君のせいだからね。ユーナが生まれさえしなければオレが死ぬことはなかったんだ。ユーナが死んだもう1つの歴史の中で、オレはあの退屈な村を出て自由に生きていたんだよ。君さえいなければ、オレはあんな生き方だってできたはずなのに」
――リョウ。この人はあたしのリョウなの? 祈りの巫女の右の騎士で、あの日獣鬼に殺されてしまった、あたしだけのリョウ――
「もちろん君を愛していたよ。今でも君を愛している。…だから一緒に来てくれるよな、ユーナ。オレが永遠に眠る死者の世界へ」
…違う。こんなのぜったいリョウじゃない! だって、リョウはいつもあたしのことを想ってくれてたんだもん。たとえ自分が死者の国へ行くことになったって、あたしを道連れにしようなんてリョウはぜったいに思わないよ!
リョウの両手があたしの首にかかる。苦しい息の下で、無意識にあたりを探っていたあたしは、手に金属の何かが当たる感触を感じた。…これ、昨日リョウが手渡してくれたレーザーガンだ。あの時リョウが使い方を教えてくれた。
死にたくない、あたし。たとえ死んだリョウの姿をしていたって、目の前にいるこの人は影なんだ。こんなところで影に殺されたくなんかないよ。どうにかして手を動かして、レーザーガンを影に打ち込むことができたら、あたしはこの影から逃れられるかもしれない。
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