頭がガンガン痛んで、目の焦点がぜんぜん合わなくて、息苦しさに気を失ってしまいそうだった。もう、自分がなにを思って右手を動かしているのかすらも判らなくなっていた。たぶんあたし、このとき半分以上意識がなかったんだと思う。ようやく持ち上げることができた何かを目の前のリョウの身体に押し当てて、人差し指に力を入れた。
 その瞬間、いきなり目の前の風景が変わっていたの。それまでの灰色の世界から、一瞬まぶしく思えたほどの白い部屋の中へ。それまでの息苦しさや頭の痛みもとつぜん感じなくなっていた。目の前のリョウが驚いたように目を見開いてあたしを見つめている。
「シュウ! まさか、あの怪物がシュウだったの?」
「ユーナ! …クソッ、騙された! ユーナ、怪我はないか?」
 聞こえたのは命の巫女とシュウの声。そして、あたしの"両肩"を掴んでいたリョウが、前方に静かに身体を倒していく。まるであたしを気遣うように、あたしの身体にのしかかるのを避けながら。
「ユ…ナ、…正気にな、れ…」
 何が起こったのか理解できなかった。うつ伏せで倒れたリョウは目を見開いたままぴくりとも動かない。あたしの右手にはレーザーガンが握られていて、わずかに熱が残っているのが判る。そして、リョウの左の胸には、黒く焦げたような跡。
「クックックッ…。すごいよユーナ。まさかユーナが本当にオレを殺せるとは思わなかった」
 背後から聞こえた声に反射的に振り返ると、そこには2人目のリョウが立っていた。奇妙な笑い顔を浮かべてあたしを見下ろしている。…これが、さっきまであたしの首を絞めていたリョウなの? だとしたら、今ここに倒れているリョウはいったい誰…?
「リョウ! …きさま、リョウと祈りの巫女に何をしたんだ!」
「何を、って。おまえらもたった今経験したばかりだろ? 恐ろしい幻を見せて互いを戦わせたんだよ。もっとも、おまえらとは違って、こちらは幻を見ていたのは祈りの巫女1人だけだったけど」
「リョウ! しっかりしてリョウ! お願いだから動いてよ!」
「…ダメだユーナ。…無駄だよ。完全に事切れてる」
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