「オレも自分が育てた世界を守りたいんだ」
「あたしは、あなたの世界を滅ぼしたりしないわ。約束する。これから先、あたしは村から1歩も外へは出ないし、村人の幸せ以外は祈らないわ。だからお願い。もうこれ以上、村を襲ったりしないで。村を滅ぼさないで」
 あたしが懇願するような視線を向けたとき、ちょっと悲しそうな表情になって目をそらした影の姿は、もうセトと少しも違わなく見えた。あたしはセトを悲しませてしまった気がしてドキッとする。そのあと、この人はセトじゃないんだって自分に言い聞かせなければ、あたしはこれが影であることを忘れてしまっていたかもしれない。
「それは、無理な相談だな、祈りの巫女」
 いったん目をそらした影は、再び視線をあたしに戻して続ける。
「なぜなら、オレの世界を滅ぼすのは君じゃないんだ。君から力を受け継いだ13代目の祈りの巫女。まだ生まれていない彼女こそが世界の破壊者になる。…ね? 君が今どんなに約束してくれたって、君が死んだあとのことまでは責任もてないだろ? 村を滅ぼせば、あの場所から村人を追い払うことができれば、2度と祈りの巫女は生まれない。だから君の村は滅ぼされなければならないんだ」
 あたしじゃないの…? 影の世界を滅ぼすのは、あたしが死んだあとに生まれる、13代目の祈りの巫女なの?
 村が滅びれば13代目は生まれなくなる。だから影は村を滅ぼそうとしているんだ。あたしたちの村が滅びるか、それともあたしと命の巫女が今影を倒すか、本当にそれだけしか方法はないの?
 影だって自分の世界を大切に思ってる。その気持ちは、あたしが村を思う気持ちと同じはずだ。そのどちらも滅びずにいられる方法はないの?
「あたしの意志はあたしが死んだあとも残るわ。だって、あたしは日記をつけているもの。13代目の祈りの巫女が正しい心を持てるように、今日の出来事を伝えていく。私欲のために祈りの力を使わないように、って。周りの神官たちにも、ほかの巫女たちにも言い伝えるわ」
「無駄だよ、祈りの巫女。君がそれを言ってもぜんぜん説得力がない。神殿にはもともと私欲の祈りに対する戒めがあるのに、君は簡単にそれを破ることができたじゃないか。そんな君の言葉をオレが信じられる訳がないだろう?」
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