「違うよ。オレの存在と、君が言う神様とはぜんぜん違う。――神とは計算するもののことだ。たとえば、オレがここで祈りの巫女を殺したらどうなるか、その答えをはじき出すのが神だ。君の祈りを実現するのも、神が君の力を計算して答えを出しているに過ぎない。オレ自身も、神の計算の上でしか自分をこの世界に存在させることができない」
あたしにはその影の言葉を正確に理解することができなかった。言葉どおりに受け止めれば、影も神様のことわりの中でしか生きられないことになるけど。
「話がそれたな。祈りの巫女、君の力のことだけど。神様が祈りの巫女に与えている幸運は、祈りの巫女が一生祈り続ける程度では、すべて使い切ることができないくらい多いんだ。祈りの巫女が祈るのは、たった1000人にも満たない村人のささやかな幸せで、しかも村人の多くは自分の幸せは自分で掴み取ろうとするからね。なぜ、神様が祈りの巫女にそれほど多くの幸運を与えるのか、それはオレにも判らない。でも事実、ほとんどの祈りの巫女は、自分の寿命が尽きるまでに力を使いきることなんかできないんだ」
影の声が少しずつ変わっていた。だんだんしゃべり方が流暢になって、違和感を感じさせなくなっているの。それに伴って顔の表情も変わってきている。目に表情が生まれて、まるで本物のセトがそこにいるかのような錯覚を起こさせていた。
「その、祈りの巫女が一生で使いきれなかった幸運は、そのまま次の世代の祈りの巫女に受け継がれる。次の祈りの巫女だってそのすべてを使い切れないから更に次の世代に。…12代目の君の中に、いったいどのくらいの幸運が受け継がれているものか、想像することができる? 2代目のセーラは受け継いだ力をすべて使い果たしたけど、3代目から12代目までの10人分の幸運が君の中には眠ってるんだ。…これは、恐ろしいことだよ、祈りの巫女。君は既に、世界をまるごと滅ぼすほどの力をその身体に宿して生まれてきているんだから」
あたしに、世界を滅ぼすほどの祈りの力が眠っている。
話が大きすぎて、あたしの想像の範囲をとっくに超えていた。あたしは、祈りの巫女の幸運が次の代に引き継がれていることは知らなかった。影はこのことをあたしに教えたくて、今ここへ、あたしと話すためにやってきたの?
「祈りの力が、あなたの世界を滅ぼすというの? だからあなたは村を襲ったの?」
「君の村が滅んでくれなかったら、こちらが滅ぼされる訳だからね。あれは防衛としての攻撃だったんだよ」
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