「あたしに与えられた幸運の力を、祈ることで願いを叶える力に変える。神様に変えてもらうの。…それがなに?」
「それだけか。…だったら、君は肝心なことを知らないよ。祈りの巫女は12人もいるのに、誰もその事実に気がつかなかったんだ」
セトの姿をしているせいかもしれない。影の言葉には真実味があって、あたしの中から疑いの気持ちを奪っていく。いつの間にか影の言葉を真剣に聞こうという気持ちになっていたの。
「あたしが何を知らないっていうの? それに、祈りの巫女はあたし1人だけだわ。あたし以外の祈りの巫女は既に死んでいるのよ」
「ああ、そうだね。君は村の時間で16年よりも前には存在すらしていなかった。だから君が自分を唯一の祈りの巫女だと思う感覚は理解できるよ。だけどオレは、君の村が生まれるよりもはるか昔、この世界ができあがるよりも前から存在していた。だからオレの感覚では祈りの巫女はちゃんと12人いるんだ。…君の次の代、13人目の祈りの巫女もね」
いったいなにを言ってるの? 影は、1500年以上も昔から、あたしたちの村のことを知っていたの?
影はいったいどのくらいの時間を生きているの? あたしたちの村ができてから、ずっと村を見張っていたの? それどころか、影は未来すらも見ることができるというの?
疑問ばかりが頭の中を渦巻いていた。影は嘘をついているのかもしれない。でも、もしも影の言うことが本当だったら、影の時間の長さは神様の時間に匹敵する。…ううん、それは判らないけど、あたしから見たら影の時間も神様の時間も永遠だという意味で同じものだ。影の国には神様がいる。だから、影と神様が同じものだって可能性もまったくない訳じゃないんだ。
「あなたは…いったい誰なの…?」
「話す必要はないし、話したところで君には理解できないよ。しいて言うならオレは君の村を滅ぼそうと思ってる存在だ。君の祈りを力に変えている神様とも違う」
影はあたしが考えていたことを言い当てて否定した。影にはあたしの考えることもすべてお見通しみたいだった。
「でもあなたはあたしたち人間よりも神様に近い存在だわ。ここはあなたが支配する世界なのに、神様の存在をすごく近くに感じる。あなたは…神様と同じ種族のものなんじゃないの? たとえば巫女に対する神官のような」
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