神様の気配に同調して、徐々に感覚を広げていく。視点を引き上げて空から全体像を見渡せるようにする。この時点ですぐに命の巫女が言ってることが判った。この場所は天井より上にも下にも限りなく部屋や通路があって、村を空から見渡すようにはいかなかったから。
とにかくまずはここがどのくらい広い場所なのかを見極めなければいけない。だから視点をずっと引き続けていたんだけど、いつまで経っても全体が見えてこないの。あたし、祈りの力の限界なんて今まで知らなかった。それ以上視点が引けなくなって、やっとそれがあたしの限界なんだって判ったんだ。
見える範囲の広さだけでいったいどのくらいあるだろう。たぶん、村の広さの軽く100倍はあるに違いないよ。こんなところだとは思わなかった。広い建物の中だとは思ってたけど、まさか村の100倍以上も広い建物だなんて。
1度戻って、目を開けたあたしは見守ってくれていた命の巫女と視線を合わせた。
「ここ、どこ? 広すぎてぜんぜん判らない。どうしてこんなに広いの?」
「びっくりしたでしょう? でも、広さに惑わされないで。あたしたちはあの扉をくぐってここに辿りついたんだもん。影の本体の場所はそんなに遠くないはずよ」
「…そうか。そうよね」
命の巫女に励まされて、あたしは再び視界を拡張させた。今度は目一杯広げるなんてことはしないで、今いる場所を中心にしてあたしが手に負える範囲――村の大きさと同じくらいで止めておく。その球体の中に影の気配を探ったけど、とりたてて変なところはなかったんだ。…ううん、そうじゃない。1箇所だけおかしなところがある。
――祈りの巫女、聞こえたら答えて。
不意にその声が感覚の中に割り込んできて、あたしは驚いて注意を向けた。姿は見えないけどあたしには判ったんだ。それが命の巫女の声なんだ、って。
「聞こえるわ。でもどうして?」
――もしかしたらと思って身体に触れてみたの。いま、あたしも祈りに入ってる。あなたの見ているものがあたしにも見えてるわ。
こんな力の使い方ができるなんて思ってもみなかった。昨日祈りを覚えたばかりなのに、まるで命の巫女の方が祈りの先輩みたい。
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