人の限界を超えるほどの大きな力。あたしは、そんな力を求めているリョウに不安を覚えた。今日の戦いでリョウはたくさんの影を殺すことができた。今でも十分強い力を持っているのに、どうしてそれ以上の力を求めるの?
「限界を超えたら、リョウの身体はどうなるの? …それでもあったかいままでいてくれる?」
不意に目を見開いて引き戻そうとしたリョウの手をあたしは掴んだ。
「あたし、自分の身体がどんななのかなんて判らない。でも今リョウのあったかさを感じることはできるの。これから先、たとえば無事に村へ帰れたとき、あたしたちは元の身体に戻れるのかな。怪我をすれば血が出て、時間が経てばおなかが減って、夜になればちゃんと眠くなる元の身体に。…もしも戻れなくても、リョウのあったかさを感じられるならあたしはそれでいいの。でも、リョウが人間の限界を超えるくらいに強くなったら、それでもリョウはあったかいままでいてくれるの?」
目を見開いたままあたしを見つめていたリョウは、言い終えて精一杯見つめたあたしの視線を拒むように目を伏せた。
「…先のことは、いい。今はそれを考えるときじゃない。今は、影を倒すことだけを俺は考えてる」
リョウに言われて気づいた。あたしは未来を夢見ちゃいけないんだってこと。リョウに未来を期待しちゃいけないんだ。だってリョウは村を救ったあとは自分の国へ帰ってしまう人なんだから。
「…ごめんなさい」
「別に謝るようなことじゃないだろ」
未来のことを話してごめんなさい。あたしが未来を夢見るようなことを言ったら、それだけでリョウを苦しめてしまうのに。誰よりも優しいリョウは、あたしを傷つけたと思うたびに1つずつ心に苦しみを背負ってしまう。
「俺は守りたいものを守れる力が欲しい。まだ足りないんだ。今の俺ではまだなにも守れない」
あたしはドキッとして苦悩に顔を覆ったリョウの震える両手を見つめた。その言葉にかつてのリョウが言った言葉を重ねて――
「シュウが腕を失ったあの時、絶望した命の巫女の顔を見た。…あの顔は2度と見たくない」
目を閉じていたリョウは気づかなかっただろう。それを聞いたあたしの表情に、きっと命の巫女と同じ絶望が宿っていただろうことを。
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