今のあたしの知識では、シュウの話についていくことすらできなかった。でもどうやらほかの2人も同じだったみたい。そんな空気を感じたのか、シュウは諦めたような顔で言った。
「こういう話、面白くないみたいだな」
「…悪い。俺にはさっぱり判らない。夢の中にいるのとどこが違うんだ?」
「たいした違いはないさ。夢の中と同じでオレたちの肉体は食物を必要としていないし、おそらく眠りも必要ない。確かにさっきまでオレは腹が減ってたし、今は満腹感と眠気を感じてるけど、そいつはすべて自分の記憶がそう感じさせてるだけの話なんだ。その「肉体の記憶」ってヤツを克服すればこれから先食事や睡眠に時間をとられなくてもすむようになる。リョウ、あんたも、「自分にはこれ以上の動きはできない」って感覚を取っ払うことで今より戦闘能力を上げられる可能性がある。…こっちの話なら興味があるんじゃないか?」
シュウの言うとおりだった。話の途中から、リョウのシュウを見る視線が明らかに変わっていたんだ。
「俺自身が記憶している身体の限界を超えろってことか? 今の俺の身体ならそれで人間の限界以上の力が出せるのか?」
「簡単にはいかないけどな。今のオレが食事や睡眠を拒否できないように、あんたが人間の限界を拒否するのも難しいだろ。火事場の馬鹿力を出し続けたら人間の身体は壊れちまう。身体がなくたって、そういう危険回避の本能はオレたちの感覚にしっかり残ってるから」
リョウは答えずに自分に沈みこんでしまったから、シュウは今度は命の巫女に向き直ったの。命の巫女に近づいて両手を伸ばすと、彼女のほっぺたをつまんで左右に引っ張ったんだ。とうぜん命の巫女が抗議の声を上げる。
「やだ、いたい、やえてよ」
「痛いはずないだろ? おまえの皮膚には神経なんか通ってないし、痛みを痛みとして判断するための脳もないんだから。…それにしてもいい顔だな、おまえ」
「もう! いいかげんにしてよ! あたしの顔はおもちゃじゃないよ。いきなりこんなことしてどういうつもり?」
「だから、これがおまえの頭に合わせためちゃくちゃ簡単な取扱説明書。痛いと思ってるのは以前同じことをされて痛みを感じた経験を覚えているからだ。痛くないと思えば痛くない。なんなら1晩中顔をつねっててやろうか?」
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