「…やっぱりな。そんなことじゃないかと思った」
 あたしは、もちろんリョウの言葉にも驚いたけど、そのあと息をついて言ったシュウの言葉には更に驚いていたの。だって、人間の腕の中が空洞なはずないもん。血が出てないことに気づいてなかったら、あたしはリョウがなにか見間違いをしたんだと思っただろう。
 シュウは、いったいなにを知っているの? 人間の腕が空洞だったのに、どうしてやっぱりって言うの?
「リョウ、ショックだったのは判るけど、そういうことをオレに隠そうとは思わなくていいよ。あんたはオレがショックを受けると思ったんだろうけどね。別に腕が空っぽなのはオレだけじゃない。ここにいる4人が4人とも同じ身体を持ってるはずだろ? だからこいつはオレたち全員の問題なんだ」
 あたしはほとんど反射的に自分の両手をまじまじと見つめてしまったの。でもそれはいつもの見慣れた手のひらでしかなくて、この中が空洞かもしれないなんて少しも思うことができなかった。同じように自分の身体を見ていた命の巫女が口を挟む。
「リョウ、それって目の錯覚とかじゃないの? だって人間が皮膚だけで中身が空洞だったら動けるはずないじゃない。シュウだってさっき腕が重かったって言ってたでしょう?」
「重かったさ。今だって自分の身体の重さは感じるよ。でもリョウが見たものは錯覚じゃない。…扉の空間で、祈りの巫女の左の騎士が死んだ時間へ行っただろう? あのときにオレたちの身体が透けてたのを覚えてないか? 人間の身体が透けるのは納得できて、空洞なのは納得できないってのもおかしな話だと思うけどな」
「…別に納得してるんじゃないもん。今まで忘れてただけで」
 言い負かされて、命の巫女はすねたように口をつぐんだ。シュウが慰めるような笑顔を向けて続ける。
「まあ、おまえはそれでいいんだよ。必要なことはぜんぶオレが考えてやるから、左の騎士に任せておけばいい。…で、オレたちの身体についてだけど、一言で簡単に言えば、肉体そのものの次元が今までとは変わってるんじゃないかと思う。おそらく扉の空間に入った時点で肉体の定義が変わったんだろうな。それより詳しい説明を1からしようとすると時間がかかりすぎるから端折るけど」
 とうぜんのことながら、あたしにはさっぱり意味がつかめなかった。でもそれは命の巫女も同じだったみたい。
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