程なくして目覚めたシュウと命の巫女が感激のあまり抱き合って、そのあとの光景はリョウと2人で背中を向けたまま見守った。あれだけすごい悲鳴を上げていたシュウは、身体のどこにもおかしいところがないことを確認したあと、いともあっさりと言ったの。
「腕が落ちたときにさ、身体が左に傾いてバランスが取れなくなったんだよね。そのとき思ったんだ。人間の腕は意外に重いんだな、って。…ま、そのあとは痛みと不安でそれどころじゃなかったけど」
 あんなことになった瞬間にこんな観察をしているシュウは、シュウらしいといえばあまりにシュウらしかった。今だから笑い話として聞けるけど、あの状態のときにこんな話を聞いてたとしたら、命の巫女は卒倒していたかもしれない。
 全員、肉体的にというよりは精神的に疲れてしまっていたから、これ以上先へ進もうという気力をもてなかった。そろそろ夜になる時刻でもあったみたい。リョウはあちこち動き回って、休む場所をリョウが最初に入った1番右の通路に決めてくれたの。みんなで協力して、もしもまた影が襲ってきてもすぐには突破できないように、影の死骸を通路の両側に積み上げて通せんぼにした。影が持っていたレーザーガンもはずして、1人1つずつ持って寝ることにしたんだ。
 食事を終えて、暗くならない通路の中で思い思いの場所にくつろいでいたとき、おもむろにシュウが切り出した。
「オレの服、ぜんぜん血がついてなかっただろ? もしかして血い出なかった?」
 命の巫女はあの場でそこまで観察する余裕はなかったみたい。シュウの視線があたしに向いたから、仕方なくあたしが答えていた。
「出てなかったみたい。…レーザーガンの傷って血が出ないものなの?」
「いや、そんなことはないと思うよ。…切り口は見た? どんなだった?」
 さすがにあたしもそこまでは見てなかったよ。だいたいあたしが血の出てないことに気づいたとき、切り口は光っててはっきりは見えなかったんだ。
「あたしは見てないわ。リョウは? 腕を拾ってくれたでしょう?」
 リョウも言いづらそうに息を飲んで、でもシュウの視線に負けてようやく口を開いた。
「なにもなかった。…切り口には骨も筋肉も、なにもなかった。空洞だった」
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