そのとき、外からリョウが投げ込んだらしいものが祈りの球体を通り抜けて足元へ転がってきた。それはシュウの右腕で、あたしと命の巫女はまた悲鳴を上げてしまったけど、少なくとも祈りの球体の働きを証明することはできた。
「祈りの巫女、お願い。あたしに祈りのやり方を教えて! シュウを助けたいの!」
命の巫女が涙を浮かべてあたしに懇願する。あたしは今、祈りの球体を展開するのに精一杯で、シュウを治す祈りはできない。命の巫女はそのことに気づいて、自分でシュウを治そうとしてるんだ。
「神様の気配を感じる?」
命の巫女は呼吸を整えたあと、目を閉じてあたしの問いに答えた。
「ええ、判るわ」
「神様の感情を読み取ってみて。神様の気配はどんな感じ? 感情を言葉にして」
「恐怖。それと後悔。…悲しみ、焦り――」
「それでいいわ。落ち着いて、神様に願いを伝えるの。言葉と、そしてイメージを使って」
神様の感情は、祈りを捧げている自分の感情を映したもの。今、神様は命の巫女の方向を見ている。あたしが祈りの訓練を始めて、実際に神様の感情を感じられるようになるまで、いったいどのくらいの時間がかかっただろう。いくらここが神様に近い場所だからって、命の巫女は一瞬で神様に同調することができるんだ。
命の巫女が祈り始めてしばらく、シュウの腕が奇妙な輝きを放ちはじめたの。切り口のあたりがきらきらと輝いて、床に転がったままだった腕の切り口にも同じ輝きがある。そのときあたしはシュウが今までに1滴の血も流していないことに気がついていた。あたしがシュウの腕を拾って、切り口を合わせてあげると、まもなく腕はつなぎ目も判らないくらい完璧に合わさっていったんだ。
肩に手を置かれて、あたしはいつの間にかリョウがそこに立っていたことを知った。リョウの無事を確認して、祈りの球体を消す。程なくして命の巫女が目を開けて、シュウの傷が治っているのを見て心の底からほっとしたような笑顔を見せたの。そんな命の巫女の笑顔は、長かった戦いを終えたあたしたちの緊張をほぐすには十分だった。
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