あたしの祈りは、リョウの意志を読み取ることができる。でもあたしの意志をリョウに伝えることはできない。だから誰かがリョウのところへ行かなくちゃならないんだ。危険なことは判ってる。だけどそれは、リョウの婚約者であるあたしの役目だった。
「ちょっと待って! 次元の扉を使えば影の進攻を阻止できるんだ。オレたちは2人で1つずつしか扉を展開できないから、今3つの出口を2つの扉でをふさぐ方法を考えてる。だからもう少しだけ待ってくれ!」
「…だめ。待てないよ」
「祈りの巫女!」
それ以上シュウの声は聞かないようにして、あたしは4つ目の通路に飛び込んだ。だって、リョウが危険にさらされてるのに黙って待ってなんかいられない。それに、次元の扉で影を押し戻しても、それじゃ根本的な解決にはならないんだ。あの場所にいる影をすべて殺さなかったら、あたしたちは先に進むことなんかできないんだもん。
レンガの通路はさっきこの部屋まで通ってきた通路よりも少し広い感じで、想像していたよりもずっと明るかった。さっきリョウの様子を見たときの道を思い出しながら、曲がり角で少し用心する以外はずっと走って移動していったの。道そのものは一本道だったから迷う心配だけはなかった。しばらくいくと影の死骸がいくつか見え始める。でもそれはトンネルで見た影とは違っていて、より人の姿に近い形をしていた。
キーンと耳の奥に突き刺さるような音と、影たちが立てるガチャガチャという足音が近づいてくる。リョウがいる場所はさっきとほとんど動いていなかった。あたしがうしろから近づいていくと、不意に気づいたリョウがあたしに手に持ったなにかを向けたんだ。
「! …ユーナ! どうしてここに」
それにはかまわず会えたうれしさに笑顔で近づいたあたしは、リョウと同じように通路の角に身を隠しながら乱れた呼吸を整えた。
「向こうの通路が突破されそうなの。もしもあの部屋からこの通路に影が入ってきたらリョウが危ないから」
「おまえ…ジュウコウが怖くないのか?」
リョウはそうつぶやいて、でも1人で納得したらしくて大きく息をついた。
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