「オレたちは影を倒しに来たんだぜ。先が危険だからって逃げる理由にはならないだろ。むしろ向こうから来てくれるなら願ってもないことだ」
「だけど敵が用意した場所で戦うなんて、あたしたちが不利になるだけだよ。…そうだ。せめてさっきの広い部屋まで誘い出せないかな。あそこだったら周り中デンシカイロばっかりでロボットも戦いづらいよ、きっと」
「どうやって誘い出すんだよ。この空間を熟知してる影がオレたちの誘いになんか乗るはずないだろ? けっきょくのところ、オレたちは敵が用意した場所で戦うしかないんだよ。提案するならせめて実現可能な作戦にしてくれ」
 そんなシュウと命の巫女の言い合いは、言ってみればいつもの2人の会話だったんだけど、あたしには喧嘩のように見えてちょっとハラハラしちゃったよ。すねたように黙り込む命の巫女は実はそれほど気にしてないのかもしれない。でもあたしは、以前シュウがリョウのことを「協調性がない」って言ったけど、リョウよりもむしろシュウの方が協調性に欠けているような気がしてきていたの。
 廊下の向こうはここからでも広い空間が口をあけているのが判った。近づいていくあたしたちをリョウが手を上げて制して、まずはリョウが警戒しながら少しずつにじり寄っていく。息を飲んで見守っていたあたしたちは、廊下を出て少し歩いたリョウが再び手を上げるのを待って、ゆっくりとその空間に足を踏み入れていた。
 ここもさっきの部屋と同じく、天井が高くて明るい部屋だった。でも壁はさっきとは違って、茶色の小さなレンガを積み上げて作られていたの。ここではさっき命の巫女が教えてくれたキカイの音がまったくしない。あたしたちの足音だけが周囲に反響して、ほかの音は一切聞こえなかった。
 ――ううん、あたしたちの足音以外の何かの音が近づいてくる。それは部屋の正面の壁に4つも見える通路の先からで、さっきトンネルの中に現われたロボットたちの足音によく似ていたんだ。
「なるほど、戦いやすい場所に誘い込まれたな。…シュウ、命の巫女、2人で左側の3つの通路から出てくる奴らを頼む。俺は1番右の通路を担当する」
 そう言うとリョウは右の通路に向かって走っていった。あたしが声をかける暇もなかった。うしろからシュウが叫ぶ声が聞こえる。
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