みんながそこで立ち止まったから、あたしは更に耳を澄ませて、気のせいじゃなかったことを知った。
「音が小さくなってるの。ほら、さっきのトンネルで響いてた変な音。それに匂いも薄くなってる」
 リョウも周囲を見回す仕草をして、あたしにうなずきかけてくれた。シュウと命の巫女も苦笑いを浮かべて同意してくれる。
「祈りの巫女は敏感だね。オレは言われるまで気がつかなかったよ。っていうか、教えてもらった今でもぜんぜん違いが判らない」
「あたしたちって、ふだんあれと似た音の中で生活しているから、慣れすぎてて鈍感になってるみたい。そういえば祈りの巫女の宿舎は、周りに人がいてもどこか静かな感じがしたもんね。あれってキカイがなかったからなんだ」
「キカイ?」
「ええ。人が作った道具のこと。中に仕掛けが入っていて人間が何もしなくても勝手に動いてくれるから、たえず小さな音がしてるの」
 キカイという言葉は聞いたことがあった。あたしは、以前それを口にしたリョウを振り仰ぐのが怖くて、下を向いたまま考えている仕草を続けていた。…リョウの嘘が破綻しかけている。今のあたしには、影よりも何よりも、それが1番怖かったの。
 更に歩き続けてしばらくしたとき、おもむろにシュウが言った。
「周りにキカイがないんだとすると危ないかもしれないな」
 今度は誰も足を止めることはしなかった。廊下はまだ続いていて、たまに両側にドアがあるほかにはなんの変化も見られなかった。
「どういうこと? 危ないって」
「誘い込まれてる可能性がある。オレはさっき現われたロボットの意味をずっと考えてたんだけどね。あれは遠距離の攻撃をぜんぜん仕掛けてこなかっただろ? それはもしかしたら、あの場所で飛び道具を使いたくなかったからなのかもしれない」
「そうか。壁を壊しちゃったら中に入ってるキカイも壊れるから。でもシュウ、さっきはこっちの方向で間違いないって言ってたじゃない」
「確率が高い、って言ったんだ。オレにだって間違えることはあるよ。人間なんだから」
「んもう。これだから頭がいい人って嫌い。ちゃんと逃げ道を用意してるんだもん。…で、どうするの? 引き返すの?」
 そのとき、ちょうど廊下のカーブを通り過ぎたあたしたちは、この先で廊下が終わっているのを見ることができた。
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