リョウの答えに、あたしも笑顔が漏れていた。リョウがそんなに簡単に人を嫌いになったりできる人じゃないってことが嬉しくて。
「でもさっきはすごく怖い目で睨んでたよ」
「理不尽なことを言われればな、腹も立つさ。だけどそれは俺への報いでもあるから甘んじて受けてる。…おまえ、シュウにこんな話するなよ」
あたしはちょっと不思議に思って首をかしげたけど、すぐにうなずいたらリョウが先を続けてくれた。
「自分が嫌いだと思ってる奴に好かれるってのはなかなか屈辱的なんだ。おまえには判らないだろうけどな、俺にはよく判る。だからシュウにはわざと突っかかってやってる。これからも俺とシュウは喧嘩するだろうが、おまえは気にするな。これは俺とシュウの問題だ」
「…よく判らないよ。だってあたし、シュウとリョウが喧嘩するのなんて嫌だもん。やっぱり同じ目的を持ってる同士、仲良くして欲しいよ。リョウの方から仲良くすることはできないの?」
「人を嫌うのは悪いことじゃないって、俺は思ってる。あいつが言ってた相性が悪い奴ってのは確かに存在するんだ。そういう奴を無理やり好きになろうとするよりは嫌いになってた方がいい。俺はあいつに嫌われたところで痛くも痒くもない」
リョウが言ってること、あたしにはぜんぜん理解できなかった。だってあたし、今まで自分が嫌いだと思った人なんていないんだもん。どんな人だって必ずなにかいいところを持ってて、知れば知るほど嫌いになることなんかできなかった。あたしは最年少の名前を持った巫女で、だから人に嫌われることはあった気がするけど、でも付き合ううちにみんなあたしを判ってくれるようになったんだ。
2人が仲良くなるためには、ある程度時間が必要なのかもしれない。だって、リョウも最初はシュウを嫌いで、でも今は嫌いじゃないって思えるようになったんだもん。シュウにもきっとリョウのいいところを知るだけの時間が必要なんだ。
「戦闘の跡がまるでないな」
あたしが考えているうちに、リョウは立ち止まって床を調べていたみたい。たぶんこのあたりで影とシュウが戦ってたんだ。だけどそこはほかの廊下と少しも変わったところがなくて、シュウがロボットと呼んだ獣の死骸も、シュウや命の巫女が炎を放ったのならとうぜんついているはずの焼け焦げも、まったく見られなかった。
次へ
扉へ
トップへ