「ごめん、祈りの巫女。君に気を遣わせるつもりじゃなかった。…君が言ってることは逆なんだ。オレはこいつを嫌いだから、些細なことで苛ついて攻撃してる」
 シュウはチラッとリョウを見たあと、視線を戻したときには少しだけ落ち着いたらしい微笑みを見せていた。
「理屈では判ってるんだ。一方向から敵が来る場合、遠距離で攻撃するオレと接近戦のリョウとが同時に攻撃することはできない。だから今回リョウがオレとユーナに攻撃を任せたのは正しいんだ。リョウが君の祈りを手助けしていたのも判ってるよ。だから君がオレに謝る必要はないんだ。…理屈では理解してるんだけどね。ときどき感情に負ける。自分の感情をコントロールできなくて余計なことを言っちまう。自分でも情けないと思うけど」
 そう、自嘲の笑みを見せたシュウに、あたしは適切な言葉をかけることができなかった。
「たぶん相性が悪いだけなんだ。今までリョウがオレに何をしたって訳でもないし、オレがリョウを嫌う理由って1つもないからね。これからは少し努力してみるよ。だから祈りの巫女も、自分が悪いとは思わないで」
 そこまで話してにっこり笑いかけたシュウは、不意に照れたように視線をはずして再び歩き始めた。そのうしろを命の巫女が追いかけていく。あたしは言われた言葉を消化し切れなくて立ち尽くしてたんだけど、リョウに促されてゆっくり歩き始めていた。
「シュウってどうして祈りの巫女にはそんなに素直なの? あたしと話すのと態度がぜんぜん違うよ」
「なんだよそれ。…もしかして妬いてたりする?」
「んもう、そんなこと言ってないでしょ!」
 前を歩く2人はまた痴話げんかを始めてしまって、あたしもようやくその緊張状態から解き放たれていた。リョウはあたしにあわせてゆっくり歩いてくれている。隣を振り仰ぐと、さっきみたいな怖い目はしてなかったから少し安心することができた。
「リョウは? リョウもシュウのことが嫌いなの?」
 答えてくれないかと思った。でも、リョウはあたしに笑顔を向けると、首を横に振ったんだ。
「最初は嫌いだったが、今はそうでもない。だからあいつの言うことにいちいち怒ってる訳でもない」
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