「潜在的にはあたしなんかよりずっと強い力を秘めてるんだよ、祈りの巫女は」
 命の巫女はそう言ったあと、あたしににっこりと笑いかけた。でもあたしは笑い返すことができなかった。なぜなら、あたしを見つめるリョウの目がぜんぜん笑ってなかったから。
「そうだな。なにしろ祈りの巫女はオレたちを自分の祈りで呼び出したくらいなんだ。あのロボットたちのセンサーを狂わせるくらいはできるかもしれないな。…祈りの巫女が大丈夫ならそろそろ移動したいけど」
「大丈夫よ。もう歩けるわ」
 あたしがちょっとふらつきながらも何とか立ち上がると、シュウはリョウのことを無視してさっき影が現われた方へと歩いていった。その背中に命の巫女が声をかける。
「道は? そっちで間違いないの?」
「確率の問題。ふつう侵入者を撃退しようとするなら、自分らが行かせたくないと思う方向から攻撃を仕掛けるだろ? オレたちをミスリードするために逆側から攻撃したってことも考えられるけど、あのタイミングからしてそこまで緻密な作戦を立てられる時間があったとも思えないから。…ユーナ、オレの隣に並んで歩いて。誰かさんは見掛け倒しで頼りにならない」
 シュウの最後の言葉に、リョウがぴくっと反応したのが判った。既に歩き始めているシュウの背中を怖い目で睨みつけたの。一気にその場の空気が緊張して、振り返った命の巫女はそんなリョウの様子に何も言えなかったみたい。あたしはとっさに声を出していた。
「ごめんなさいシュウ! あたしが悪いの。こんなときに気分を悪くするなんて巫女失格だったわ」
「君にはなんの落ち度もないよ。じっさい影を撃退できたのは君のおかげなんだから。貢献度は何もしなかった奴とは比べ物にならないよ」
「リョウはあたしをかばってくれただけなの。もしもあたしがいなかったらリョウはちゃんと戦えたわ。だから悪いのはあたしなの。あたし、自分のせいでシュウとリョウに喧嘩して欲しくない。…元はと言えばあたしが強引についてきちゃったんだもん。ごめんなさいシュウ。あたしが謝るから、リョウのことを悪く思わないで。リョウを嫌いにならないで」
 そのとき、追いすがるあたしの前で足を止めたシュウは、1つ大きなため息をついて振り返った。
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