リョウが気づいて辺りを見回す気配を感じた。そのあとあたしを抱きしめる腕を緩めてくれたから、あたしもゆっくりと身体を動かして、目を開けてみたの。
鳴き声のような音と金属がぶつかり合うような音がなくなっていた。それと、トンネルを激しく行き交っていた赤と青の光も、白くておとなしい光に戻っていた。身体を伸ばしてトンネルの先を見やると、シュウと命の巫女がこちらに向かって歩いてくるところだったの。その向こうにいたはずの獣たちは、今はその痕跡すら残さずきれいに消えていたんだ。
「倒したのか?」
リョウがそう訊いたのに、シュウは首をかしげながら答えた。
「とつぜん消えた。…っていうか、動きが止まったかと思ったら床に吸い込まれた。あれはオレたちの攻撃が原因じゃない」
「祈りの巫女、大丈夫?」
命の巫女があたしと目を合わせた瞬間に駆け寄ってきてくれる。まだ震えるような音や匂い、それに光なんかも残ってたけど、さっきほどおかしくなりそうな感じはない。もしかしたらあたしも少しは慣れたのかもしれない。
「ええ、まだちょっと気持ちが悪いけど大丈夫みたい」
「今の、祈りの巫女の力でしょう? 影を消したの」
その命の巫女の声を聞いて、シュウとリョウがあたしに注目するのが判った。それでなんだかちょっとびっくりしちゃって、命の巫女に答えることができなくなってたんだ。
「本当に? 祈りの力で影を消すなんてことができるのか? そこに存在するものを消すなんて」
「消した、っていうより、現われないようにした、っていう方が正しいかもしれないよ。その証拠にあの光やサイレンの音も消えてたでしょう?」
「それにしたって、今までとは桁違いの力だよ。…そうか、ここには神の力がある。だから祈りの巫女の力も強くなってるのか」
「もともと祈りの巫女の力は強いんだよ。だって、そうじゃなかったら影が祈りの巫女だけを狙う訳がないじゃない」
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